無期雇用派遣は、労働者が派遣会社と特定の期間を定めない雇用契約を締結することです。派遣企業が労働者の雇用を半永久的に保証している状態です。
では、労働者が無期雇用派遣として働くと、どのようなメリット・デメリットが発生するでしょうか?今回は、労働者側と企業側の視点から、無期雇用派遣によって生じるメリット・デメリットについて解説します。
無期雇用派遣とは
無期雇用派遣とは、労働者が派遣会社と雇用期間を定めずに雇用契約を締結することです。派遣先での派遣期間が終了したとしても派遣企業が雇用を保証しており、仕事や収入は安定して得られます。
無期雇用派遣は、2013年の労働契約法改正により定められました。無期雇用派遣は、労働者の雇い止め防止と生活保障が目的です。
しかし、すべての派遣労働者が無期雇用派遣労働者として働けるわけではありません。一定の条件を満たし、無期雇用派遣として働く権利を入手する必要があります。
条件は、次の3つのいずれかを満たさなければなりません。
・同一企業との有期雇用契約締結期間が通算5年を超過
・5年以上有期雇用契約を締結した企業と現在も契約を継続中
・有期雇用契約の更新回数が1回以上
正社員との違い
正社員と無期雇用派遣労働者は、雇用契約の締結形態と待遇面が大きく異なります。
正社員とは、企業と雇用契約を直接締結し、雇用期間を定めずに働く労働者のことです。労働者が転職や不祥事を起こさない限り、定年になるまで働くことができます。
雇用期間が保証されている点は、無期雇用派遣労働者と一緒です。業務内容や所定労働時間、年間休日などは、求人票に記載された内容に従います。ただし、正社員の場合、勤続年数や実績によって待遇が変動する点が特徴です。
入社してから数十年が経つ正社員や優秀な成績を残す正社員は企業から評価され、給与や賞与に反映されることが多いでしょう。長年にわたって企業に貢献した正社員は、課長や部長など役職にも就くことも多くなります。また、福利厚生に関して利用を制限されることがありません。
一方、無期雇用派遣労働者の場合、昇進や昇給、賞与の支給はほとんど見込めません。雇用契約を締結しているのは、あくまで個人情報を登録した派遣企業だからです。
労働条件は派遣企業の内容が適用されるため、派遣先の企業に高く貢献したとしても、待遇には反映されません。そして、正社員と同じ内容の福利厚生を利用できる場合もありますが、企業によって対応は異なります。
登録型派遣との違い
登録型派遣とは派遣先が決まった後、派遣企業と締結した有期雇用期間だけ働くことを指します。派遣期間の終了=雇用契約の解消となります。たとえば、派遣期間を1年と設定していた場合、1年後に雇用契約も解消される形です。
一般的にイメージされる派遣労働者の働き方は、登録型派遣でしょう。登録型派遣は、無期雇用派遣よりも自由な働き方を実現できることが特徴です。長期休暇や趣味に没頭する時間など、プライベートの時間を確保しやすくなります。
半面、派遣期間が終了すると新しく仕事を探さなければならず、雇用や収入は不安定になります。
【労働者側】無期雇用派遣によるメリット
無期雇用派遣で働くと、労働者は主に次の4つのメリットを得られます。
・雇用と収入が安定する
・同じ職場で働き続けられる
・福利厚生が利用しやすくなる
・スキルアップが望める
雇用と収入が安定する
無期雇用派遣として働くと雇用と収入が安定し、経済的な不安を軽減できることがメリットです。
無期雇用派遣は、派遣企業が常時雇用を保証している状態です。派遣会社としては安定した収益を確保するためにも、常に派遣先を用意しています。
派遣会社は、労働者が派遣先で業務をこなして初めて利益が発生する報酬体系です。派遣労働者の派遣先が決まっていない場合、経費だけが発生します。
また、無期雇用派遣は仮に派遣先が決まっていない待機期間でも、休業手当を受け取れます。休業手当の額は直近3ヶ月分の賃金×60%です。待機期間中も無収入の状態を避けることができ、経済的不安を軽減できます。
給与の支払いも時給制から月給制に代わり、日々の生活の見通しを立てやすくなるでしょう。給与とは別に交通費も支給され、月々の手取り額が増える可能性が高まります。
同じ職場で働き続けられる
無期雇用派遣に転換すると契約期間の縛りがなくなり、同じ職場で継続的に働くことができます。
登録型派遣の場合、労働者派遣法によって同じ職場で3年以上勤務できないと定められています。労働者派遣法の目的は、3年後正社員として採用される可能性を高めることです。しかし、優秀なスキルや豊富な実務経験を持っていない限り、正社員として採用されるのは難しいでしょう。
一方で、無期雇用派遣は雇用期間の制限がないため、契約期間を気にせず働くことができます。新たな職場での人間関係構築や業務内容習得など、新たな職場への適応も求められません。腰を据えて働ける環境が整い、スキルアップや長期的なキャリア形成につなげられます。
福利厚生が利用しやすい
登録型派遣で働いていたときよりも、福利厚生を利用しやすくなります。無期雇用派遣への転換によって、正社員と同じ待遇を得られるためです。
スポーツジムの割引や保養所の利用、ベビーシッター利用時の補助など、利用できる福利厚生の幅が拡がります。福利厚生の充実によって派遣先への満足度が高まり、就業時間中のパフォーマンスにも良い影響をもたらすでしょう。
ただし、すべての派遣会社が、福利厚生の制度充実に注力しているわけではありません。無期雇用派遣に転換しても、望むような結果が得られない可能性も十分あります。
スキルアップが望める
無期雇用派遣への転換によって、スキルアップに励みやすくなります。理由は2つあります。
1つめは登録型派遣時代よりも、幅広い業務内容を任せられるためです。登録型派遣の場合、「3年後には別の職場にいる可能性が高い」と判断されるため、任せられる業務内容が限定されます。雇用期間に制限がある労働者に対し、重要な仕事を任せるのはデメリットが多いと判断されるためです。
無期雇用派遣として働くと雇用期間の制限が撤廃され、派遣先としても長期で働くことが前提となります。重い責任を伴う業務を任せられる機会も増え、知識やノウハウが蓄積されます。
2つめの理由は、研修やキャリアアドバイスなど、スキルアップに向けてのサポートを受けられる点です。無期雇用派遣を行う企業には、キャリア形成支援制度の設立が義務付けられています。
キャリア形成支援制度は、派遣労働者が長期的なキャリア形成を図れるよう、企業にサポートを促す制度です。外部研修への参加や資格取得に向けた費用援助などを行い、派遣労働者のキャリアアップを実現します。
【企業側】無期雇用派遣によるメリット
無期雇用派遣によって得られる企業側のメリットは、主に次の3つです。
・新たに派遣労働者を探す手間を省ける
・優秀な派遣労働者の流出を防げる
・多くの仕事を任せられる
新たに派遣労働者を探す手間を省ける
無期雇用派遣に転換すると、同じ派遣労働者に業務を任せられるため、新たに派遣労働者を探す必要がありません。業務内容や手順を教える手間も省けるため、教育コストも削減できます。
優秀な派遣労働者の流出を防げる
無期雇用派遣への転換によって派遣から3年が経過しても、労働者と雇用契約を終了させる必要がなくなります。登録型派遣の場合は部署異動をしない限り、同じ企業で3年を超える期間は働けません。
しかし、無期雇用派遣であれば雇用期間の制限は撤廃されるため、優秀な派遣労働者の流出を防げます。また、外部研修への参加や資格取得の費用援助など、キャリアアップに向けてのサポートによって、効果的な人材育成につなげられます。
多くの仕事を任せられる
正社員と同様に長期間働くことを前提としており、以前よりも幅広い内容の業務を任せられます。雇用期間を気にして業務内容を命じる必要がありません。
スキルや経験に応じた業務内容を任せられるため、人材育成や業務体制の編成に良い影響をもたらします。
また、プロジェクトメンバーへの抜擢や派遣労働者の指導など、重要なポジションも任せられます。重要な仕事を任せることで、労働者のモチベーションアップも期待できるでしょう。
【労働者側】無期雇用派遣によるデメリット
無期雇用派遣としての働き方は、メリットばかりではありません。無期雇用派遣への転換に伴い発生するデメリットは、主に次の4つです。
・書類選考や面接に合格しなければならない
・待遇改善が見込めない
・働き方の自由度が下がる
・派遣先を選びにくくなる
無期雇用派遣労働者として働くと、派遣労働者の魅力である自由な働き方を実現しにくくなります。自身のライフスタイルを変える可能性が高いため、慎重な判断が求められます。
書類選考や面接に合格しなければならない
無期雇用派遣として働くためには、書類選考や面接に合格しなければなりません。派遣先としても、無期雇用派遣労働者には、正社員と同様に責任のある業務を任せる予定であることが多いでしょう。そのため、一定水準以上のスキルや就労意欲を兼ね備えていない限り、業務を任せられません。
派遣会社の設定する水準に満たなければ、選考落ちとなります。採用試験に合格するため、仕事と並行して一定期間対策を講じる必要があります。
また、就労意欲の高さを重視している派遣会社も多く、自由な働き方を実現したい方にとってはミスマッチとなるでしょう。
待遇改善が見込めない
無期雇用派遣の場合、昇給や賞与支給はほとんど見込めません。
正社員と違い、雇用契約を締結しているのはあくまで派遣企業です。派遣先の業績アップに伴い一部従業員に還元されたとしても、無期限雇用派遣労働者には支給されない可能性が高いです。
長年同じ職場で働いたとしても待遇改善は見込めず、仕事へのモチベーションを維持することが難しくなるかもしれません。
働き方の自由度が下がる
無期雇用派遣に転換すると、希望の労働条件やプライベートの都合に合わせた働き方は、実現しにくくなります。
無期限雇用派遣は、派遣会社に雇用を常時保証されている状態です。派遣会社は安定した収益を確保するため、派遣労働者の待機期間を最小限に抑え、常時働いている状態を作ります。
仮に待機期間が発生しても、外部研修への参加やeラーニングなど、スキルアップに向けての教育機会が提供されます。
無期雇用派遣として働くと生活が安定する一方、上記のように仕事優先の生活スタイルを確立しなければなりません。長期休暇や趣味に没頭する時間は確保しづらくなります。自由な働き方ができないリスクを認識してから、無期雇用派遣への転換を決断しましょう。
派遣先を選びにくくなる
登録型派遣のメリットは、希望の労働条件に合った職場やスキルを活かせる仕事を選択できることです。しかし、無期雇用派遣に転換すると、派遣会社が指定した勤務先で働かなければなりません。
事前に希望条件のヒアリングはありますが、登録型派遣と比べると選択の自由度は下がります。一方、派遣先の人間関係や業務内容に慣れてきた頃、派遣企業の都合で勤務先変更を告げられる可能性もあります。
新しい職場へ適応するためには、多くのエネルギーを注がなければなりません。緊張状態の継続によって疲労が蓄積し、体調不良を招くリスクが高まります。勤務先を自身で決定したい方にとって、無期雇用派遣は窮屈な働き方となるでしょう。
また、無期雇用派遣として働くと、自身との相性が合わない職場でも簡単に辞められなくなるでしょう。仮に退職する場合は自己都合退職となり、最低でも2週間前までに退職届を提出する必要があります。
無断欠勤を続けての退職は懲戒解雇や経歴詐称となり、今後の転職活動に悪影響を与えるため避けるようにしてください。
【企業側】無期雇用派遣によるデメリット
優秀な人材の流出や教育コスト削減など、無期雇用派遣は企業側にも一定のメリットが望めます。しかし、ポジティブな要素ばかりだけではありません。無期雇用派遣労働者を採用すると、主に次の3つのデメリットが企業側に生じます。
・人件費が高騰する
・モチベーションが低い派遣労働者もいる
・企業への帰属意識は正社員ほど高くない
人件費が高騰する
無期雇用派遣への転換によって、労働者1人あたりに支払う人件費が高騰します。月給制の採用や福利厚生の適用範囲拡大、待機期間中の給与保証など、正社員と同等の待遇を提供しなければならないためです。
登録型派遣よりも派遣元企業に支払う費用が高くなるため、採用選考での見極めが重要になります。
モチベーションが低い派遣労働者もいる
無期雇用派遣は雇用が安定する一方、昇給や賞与の支給はほとんど見込めません。雇用形態の違いに伴い、人間関係のストレスに悩む派遣労働者も珍しくありません。自由度の高い働き方も実現しにくく、モチベーションを保つのが難しいでしょう。
仕事へのモチベーションが低い派遣労働者の場合、スキルアップやキャリアアップへの意欲を期待しにくくなります。最悪の場合は離職を招き、新たな労働者を探さなければなりません。
企業への帰属意識は正社員ほど高くない
無期雇用派遣労働者は正社員と異なり、派遣会社と雇用契約を締結しています。正社員ほど自社への帰属意識や忠誠心の高さは望めません。人間関係でのトラブルやチームプレーの軽視、情報漏洩など、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
定期的な面談の実施やメンター役の導入など、コミュニケーションを取りやすい環境を整備しましょう。情報漏洩の危険性やセキュリティルールの周知など、不正行為の抑止力を高める取り組みも重要です。
無期雇用派遣を利用する際の注意点
新たに無期雇用派遣労働者を採用する場合、登録型労働者を無期雇用派遣に切り替える場合は、主に次の4点に注意しましょう。
・無期雇用派遣で人材を募集採用する場合は求人への記載が必須
・新たに正社員を募集する際には派遣労働者への通知が必要
・無期転換ルールのタイミングを正確に把握
・派遣元管理台帳では有期雇用派遣労働者と区別
無期雇用派遣で人材を募集採用する場合は求人への記載が必須
無期雇用派遣は、安定した収入の確保や同じ職場で長期間働けることがメリットです。しかし、派遣社員の魅力の一つである自由な働き方を失うことにもつながります。
待機期間中もキャリア形成に向けてのサポートが提供されるため、労働者は仕事中心の生活スタイルへのシフトチェンジが求められます。プライベートの充実や休暇を多く確保したい方にとって、無期雇用派遣としての働き方は合わないでしょう。
ミスマッチを避けるためにも、求人を掲載する際は無期雇用派遣の旨を記載してください。
新たに正社員を募集する際には派遣労働者への通知が必要
業種を問わず、新たに正社員を募集する場合、無期雇用派遣労働者に採用活動を実施する旨を伝えなければなりません。同じ組織で1年以上継続して勤務する無期雇用派遣労働者が通知の対象です。
労働者派遣法によって通知の義務は義務付けられており、通知せずに採用活動を行うと、罰則が科せられます。無期雇用派遣労働者の待遇改善を避けるため、正社員採用の事実を隠した場合も法律違反とみなされます。
無期転換ルールのタイミングを正確に把握する
派遣労働者を複数人常時受け入れている場合、労働者ごとに無期転換ルールのタイミングを把握しておきましょう。無期転換ルールとは、同じ企業と労働者の間で締結した有期雇用契約の期間が通算5年を超えた場合、無期雇用派遣へ自動転換する制度です。
有期雇用契約期間が3年だった場合、契約更新を1回以上した労働者にも同様の対応が必要です。ただし、無期転換ルールは労働者からの申請があって初めて成立する制度です。労働者が無期雇用派遣としての働き方を望まない可能性があります。
無期転換ルールを迎える前に、労働者側の意思を確認する場を持ちましょう。
派遣元管理台帳では有期雇用派遣労働者と区別する
派遣会社は派遣元管理台帳を作成し、無期雇用派遣と有期雇用派遣を区別して管理しなければなりません。労働者派遣法によって定められています。作成した派遣元管理台帳は、最低3年間の保管が必要です。
仮に派遣元管理台帳の作成を怠っていた場合、罰則が科せられます。
まとめ
無期雇用派遣は、労働者と企業双方に一定のメリットをもたらす制度です。労働者は収入や雇用が安定し、生活の見通しを立てやすくなります。幅広い分野の業務や責任のある仕事も任され、仕事へのモチベーションも高まります。
一方、企業にとっては優秀な派遣労働者を長期にわたって確保できる点がメリットだといえます。新たな労働者を探す手間が省けるでしょう。
しかし、モチベーションや帰属意識が高い労働者ばかりではありません。また、無期雇用派遣として働くためには、書類選考や面接を通過する必要があります。一定水準のスキルと就労意欲の高さを兼ね備えた労働者を派遣先に紹介しなければなりません。
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