派遣法3年派遣会社を変える

「労働者派遣法の3年ルールとは?」「同じ派遣先で3年働いたら強制的に退職させられる?」「派遣先も派遣元も変えずに、3年経過後も働き続ける方法はある?」派遣社員の方の中には、労働者派遣法の3年ルールについて漠然とした不安を抱いている方が多いものです。

「できることなら3年目が終わっても、派遣元である派遣会社も、派遣先である勤務先も変えずに、そのまま同じ職場で働くことができれば助かる」という方もいることでしょう。

そこで今回は、派遣社員として知っておくべき3年ルールの基礎知識、そして3年が経過した際のキャリアの選択肢について解説しています。また、3年目を過ぎても派遣会社を変えることなく、同じ派遣先で働く方法についても紹介します。

この記事を読んでいただくことで、派遣先での勤務3年目が終了した後も、より良いキャリアを選択するための知識がわかるでしょう。

そもそも派遣法「3年ルール」とは?

労働者派遣法の3年ルールとはどのような制度かご存知でしょうか?近年、政府の働き方改革の影響により法改正も行われていますが、どのような目的で、このルールが導入されたのでしょうか?

ここでは、派遣社員の方が知っておくべき3年ルールの基礎知識について解説します。

制度の概要

労働者派遣法では、原則として「派遣社員は派遣先の同じ事業所で3年を超えて勤務してはならない」という期間制限ルールを設けています。これが、通称「3年ルール」と呼ばれる制度です。あくまで“通称”であることは、覚えておきましょう。

同じ事業所で3年間継続して働く見込みのある派遣社員は、派遣先が正社員として雇用する努力を促したり、派遣会社は派遣社員が希望する場合には無期雇用へ契約を切り替える措置を講じたりすることが求められることとなっています。

目的は雇用安定のため

3年ルールは、派遣社員の雇用安定・キャリアアップを目的として導入された制度です。制度導入の背景には、政府の働き方改革が関係しています。

もともと派遣社員は期間が定められた「有期」での雇用契約となりますが、かつてはその期間についての制限は定められていませんでした。

また、派遣社員は、その働き方について正社員には無いメリットがあるものの、一方で、雇用期間・給与・福利厚生・キャリアアップなど、多くの面で正社員との待遇格差が生じやすい傾向にありました。

そこで、政府はこの3年ルールを導入することで、派遣先企業・派遣元企(派遣会社)に対する義務を設け、雇用形態の格差是正を目指しています。

いつから導入・適用されている?

「3年ルール」は、2015年(平成27年)9月30日から施行されています。それ以降、労働者派遣契約を締結・更新した派遣労働者が対象となるため、現在働いている派遣社員については、例外を除きすべての方が制度の対象となっています。

万が一、期間制限に違反した場合、違法に派遣された労働者は、労働者派遣法に定められた「労働契約申込みみなし制度」の適用となります。

派遣先は派遣社員に対して労働契約の申し込みをされたものとみなされ、派遣社員が意思表示をすれば、派遣社員と派遣先との労働契約が成立することになります。

2つの期間制限

3年ルールの期間制限には、①「事業所単位」の期間制限と、②「個人単位」の期間制限の2種類があります。それぞれ説明していきます。

①「事業所単位」の期間制限

派遣社員を受け入れる派遣先は、同一の事業所において、派遣可能期間(派遣先で新たな労働者派遣を受け入れてから3年) を超えて派遣就業することはできません。

ただし、派遣先が、派遣先の事業所の過半数労働組合などから意見を聞いた上で、3年を限度に派遣可能期間が延長される場合もあります。

②「個人単位」の期間制限

上記①「事業所単位」の期間制限について、もし派遣可能期間が延長された場合も、派遣先の事業所における同一の組織単位(いわゆる「課」など)で、3年を超えて派遣就業することはできません。

ただし、同じ派遣労働者の場合は、異なる「課」への派遣は可能です。つまり、①・②をふまえ、派遣社員の立場から考えると、派遣先が一定の手続きを踏むことによって、別の「課」で働くことを条件に、3年を超えて同じ派遣先で働くことが可能ということになります。

なお、この「一定の手続き」とは、派遣先の企業が踏むべきステップとなります。派遣先企業の担当者や従業員たちが、派遣社員を必要な労働力として認識し、正当な手続きを踏んでいく必要があります。

派遣社員側が一方的に「4年目以降は別の課で働きたいので、引き続き、御社で働かせてください」と希望するだけでは叶いません。

参照元:派遣先で働く皆さまへ(厚生労働省)

3年経過した際のキャリア選択肢

派遣社員

例外はあるものの、原則として派遣社員は3年を超えて同じ派遣先の同じ事業所で働くことはできません。しかし、有期雇用派遣社員として3年を超過することが見込まれる場合、派遣社員は、派遣元である派遣会社から雇用の安定化措置が実施されます。

では、派遣社員にとって、具体的にどのような選択肢があるのでしょうか?

新たな派遣先で派遣社員として働く

派遣会社から新たな派遣先を紹介してもらうことで、引き続き、派遣社員として働くことができます。同じ派遣社員という雇用形態ではありますが、環境がリセットされるため、捉え方次第では良い面も多くあります。

たとえば、派遣会社は、派遣スタッフの性格・仕事ぶり・プライベートの事情などもすでに把握している状況で、新たな就業先を提案することになります。そのため、派遣社員にとっては、より最適な職場探しの相談・交渉が行いやすいというメリットがあります。

また、新たな派遣先を紹介してもらうタイミングは、時給アップの交渉が行いやすいタイミングといえます。派遣社員の多くは、定期的に昇給のチャンスが訪れるわけではありません。

これを機会に、時給アップ交渉やより時給の良い求人を紹介してもらうよう働きかけてみても良いでしょう。もちろん、新たな会社で働くことになるため、新たに仕事を覚え、新たに人間関係を築いていく努力は必須です。

現在の派遣先で直接雇用の社員として働く

派遣会社は、派遣先への直接雇用の依頼を行う措置を講じる必要があります。そして、派遣先が同意すれば、派遣先の直接雇用の社員となります。

直接雇用の正社員となれば、給与・福利厚生などの待遇面で大きなメリットを得ることができます。特に、賞与(ボーナス)・退職金など、派遣社員では得ることができなかった制度には、大きな魅力を感じることでしょう。

ただし、この措置は、あくまで派遣会社が派遣先に対して、直接雇用の社員として働くことを「依頼することができる」というもの。実際に採用するかどうかは、派遣先が判断することとなります。

そのため、派遣社員として働く3年間のうちに、仕事ぶり・人柄・勤務態度など、あらゆる点において派遣先から信頼・評価されている必要があります。また、派遣先の経営状況によっては新たに正社員を採用することが難しいケースもあり、派遣社員として優秀であったとしても、必ず採用されるとは限りません。

派遣会社で無期雇用で働く

派遣社員の大きな特徴は、雇用期間に定めがある点です。しかし、「3年ルール」では、雇用期間の定めの無い「無期雇用」の雇用契約を結ぶことができるようになります。

これによって、派遣社員は3年後以降も、これまでと同じ派遣先企業の同じ課で働き続けることが可能となります。

ただし、「無期雇用」の場合、派遣会社からの業務命令として就業するため、派遣先となる企業を派遣社員自身で選ぶことはできません。また、ケースによっては、派遣先の企業ではなく、派遣会社の内勤スタッフとして働くケースもあります。

別のキャリアを選択する

上記以外にも、派遣会社は派遣社員に対して雇用の安定を図るための措置を行うことが義務付けられています。

具体的には、次の派遣先が決まるまで、派遣会社との雇用契約を継続したまま有給消化を取得してもらったり、教育訓練の機会を提供したり、紹介予定派遣(社員登用を前提に6ヶ月を上限とする派遣制度)の提供を行ったりすることなどが挙げられます。

ただし、上記で紹介した選択肢は、あくまで派遣会社が講じることができる措置となります。

近年では、働き方改革やデジタル技術の普及によって、時間・場所・雇用形態などにとらわれない多様な働き方の選択肢が生まれています。派遣会社に頼らずとも、新たに就職活動を行ったり、フリーランスとして一念発起したりする方法もあります。

いずれにせよ、自分らしく働くためには、自分自身でキャリアビジョンを描き、自らの意思によって未来を切り開いていくことが求められます。

派遣法3年ルールの例外はある?

3年ルールには、適用の対象とならない例外ケースがあります。どのような例外ケースがあるか、また自分自身に当てはまるのか解説していきましょう。

無期雇用で働いている場合

すでに「無期雇用」の雇用契約を派遣元と結んだ上で派遣先の業務を行っている派遣社員は、3年ルールの対象とはなりません。つまり、3年ルールが対象となるのは、「有期雇用」の派遣社員となります。

なお、派遣社員として働く場合、最初から無期雇用というケースは多くありません。一般的に、派遣会社に登録して派遣先の業務にあたる場合は、有期雇用からのスタートとなります。

60歳以上の場合

年齢が60歳を超えている派遣社員は、3年ルールの対象とはなりません。逆に、有期雇用の派遣社員として3年目を終えるタイミングが59歳以下であれば、3年ルールの対象となります。

有期プロジェクトに派遣されている場合

「有期プロジェクト業務」に従事する派遣社員の方も、3年ルールの対象外です。有期プロジェクト業務とは、予め期間が決められた派遣業務のことをいいます。

たとえば、事業の開始・縮小・廃止など、終期が明確なものがこれに該当します。終期が予め決まっていれば、3年以上の有期プロジェクト業務についても3年ルールは適用されません。

日数限定の場合

「日数限定業務」に従事している派遣社員の方も、3年ルールの対象外となります。日数限定業務とは、1ヶ月間のうちの勤務日数が「10日以下」かつ「一般的な労働者の半分以下」の両方に当てはまる派遣業務のことをいいます。

休業している労働者の代替業務の場合

派遣社員の中には、産前産後休業(産休)・育児休業・介護休業などの理由でお休みをしている人の代替として、派遣先の業務に従事している方がいます。休業している労働者の代替業務にあたっている派遣社員の方も、3年ルールの対象とはなりません。

3年経っても派遣会社を変えることなく同じ派遣先で働く方法はある?

3年ルールについて理解はしていても、「せっかく仕事や職場環境に慣れてきたのに、仕事を変えたくない」と考える派遣社員の方も多くいます。ここでは、3年ルールに則り、3年経過後も同じ派遣先でそのまま働き続ける方法について解説しましょう。

無期雇用で働く

3年経過後も、同じ派遣先の同じ課で働き続けるための確かな方法は、派遣元と「無期雇用」の契約を結ぶことです。

派遣会社は、同じ事業所で3年間継続して働く見込みのある有期雇用の派遣社員については、派遣社員が希望する場合には無期雇用へ契約を切り替える措置を講じる義務があります。

ただし、無期雇用の契約は派遣会社と結ぶものであり、派遣先が引き続き同じ派遣社員を受け入れることを希望するかはわかりません。つまり、派遣社員は無期雇用となっても、派遣先を指定することまではできません。

「派遣社員として生活スタイルを変えず、このまま同じ派遣先の同じ課で働き続けたい」と考えている方は、日頃から派遣先との信頼関係を構築しておくことが大切です。

別部署で働く

3年ルールで禁止されているのは、派遣先の同じ事業所で3年を超えて勤務することです。つまり、同じ事業所ではなく、異なる事業所(「課」など)であれば、3年経過後も同じ派遣先で働くことが可能です。

ただし、一般的には課が変われば、仕事も変わり人間関係も変わります。そして、これらの変化は、仕事の労働時間やプライベートにも影響をもたらす可能性もあります。

この点をどのように捉えるかが大切なポイントとなります。別部署で働くことを決断する際にも、自分自身のキャリアやライフスタイルにおいて何に重きを置くかを明確に考えておく必要があります。

派遣会社を乗り換えて、同じ派遣先で働くことはできる?

「派遣会社を乗り換えて、新たな派遣会社と雇用関係を結べば、同じ派遣先の同じ事業所で働き続けることができるのでは?」と考える方もいるかもしれません。実際に、このような事は可能なのでしょうか?

結論をお伝えすると、法律的には問題はありません。ただし、派遣会社によっては、派遣スタッフの禁止事項として契約書に盛り込んでいたり、派遣会社と派遣先との契約書面で引き抜き行為などを禁止していたりするケースがあります。

つまり、派遣会社を乗り換えて、新たな派遣会社と雇用関係を結ぼうとする動きは、大きなトラブルとなる可能性があります。派遣社員を受け入れている派遣先企業としても、リスクを背負ってまで特定の派遣社員を雇い続けたいと考えることは多くないでしょう。

まとめ

労働者派遣法では、原則として派遣社員は3年を超えて同じ派遣先の同じ事業所で働くことはできません。

派遣社員がそのまま派遣社員としての雇用形態を変えずに3年経過後も同じ派遣先で働くためには、「無期雇用」の契約を結ぶか、同じ派遣先の別の事業所で働くことを検討する必要があります。

また、派遣社員という雇用形態にこだわらず、キャリアチェンジも検討しているということであれば、派遣先で直接雇用の社員として働くことを希望するという手段もあります。

いずれにしても、現在の派遣先の勤務環境に問題がなく、「今後も同じ派遣先で働き続けたい」と考えている方は、派遣会社の担当者にもその意思を伝え、適切なバックアップを受ける必要があります。

今回お伝えした制度の活用・キャリアの選択肢も参考にしながら、自分らしいキャリアを築いていきましょう。