賃金台帳の保存期間

従業員を雇用するようになったら、法定帳簿を作成する必要があります。

労働基準法によって作成が義務付けられている法定帳簿には3種類あります。法定帳簿はその会社で働くすべての従業員分作成し、保存する必要があります。なるべく作成には時間をかけず、スムーズに進めたいですよね。

今回は、法定帳簿の一つである「賃金台帳」の書き方や保存期間、保存方法について解説します。賃金台帳の作成で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

賃金台帳とは

賃金台帳とは、労働者の名前や性別、賃金の計算期間や労働日数など社員に支払う給与(賃金)の支払い状況を記載する書類のことです。労働基準法によって、事業場ごとに作成と保存が義務付けられている法定帳簿の一つです。

労働基準法によって作成が義務付けられている法定帳簿には、賃金台帳の他に「労働者名簿」と「出勤簿」があります。いずれも作成と保存が法律で義務付けられており、労働者を雇用したら必ず法定三帳簿を整える必要があります。

賃金台帳の対象

賃金台帳の対象者は、その会社(事業所)で働くすべての従業員です。正社員、契約社員、嘱託社員、パート・アルバイト、短期就労者、日雇い労働者などの雇用形態を問わず、すべての社員の賃金や勤怠情報項目を記載しなければなりません。

経営に携わる役員も例外でなく、作成が必要です。ただし、派遣社員については、派遣元の企業での作成となるため賃金台帳の対象外となります。

また、賃金台帳は従業員を雇用している事業所ごとに作成が必要です。複数の事業所が存在する企業は、事業所ごとに賃金台帳の作成が義務付けられます。

賃金台帳と給与明細の違い

賃金台帳と似たものに、給与明細があります。両者は同じようなものに見えてまったくの別物なので、それぞれの違いをしっかりと理解しておきましょう。

目的の違い

賃金台帳には、従業員への給与の支払い状況を記録します。一方、給与明細は、会社が社員へ支払う給与額や保険料などの控除額を一覧化した通知書のことです。

賃金台帳が会社で保存をする書類であることに対し、給与明細は社員が給与額の内訳を確認するための書類である点が異なります。会社が社員に対して配布する書類となっています。

法律の違い

次に、賃金台帳と給与明細は、作成を義務付けている法律が異なります。

賃金台帳は「労働基準法」第108条と第109条によって作成と保存が義務付けられているのに対し、給与明細書は「所得税法」第231条に支払明細書を交付しなければならないと定められています。

そして、労働基準法では口座振込を行う労働者に対して、基本給や手当の種類・金額、源泉徴収税額や労働者が負担する社会保険料等控除額、口座振込をする金額などについて記載した計算書を交付する旨の通達があります。しかし、労働基準法自体には、給与明細の作成に関する規定はありません。

記載項目の違い

その他、記載するべき項目の内容にも違いがあります。

賃金台帳は、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の労働時間数など必須の記載項目が明確に定められていますが、給与明細書ではこのような時間数やの記載は必須ではなく、規定も明記されていません。

代わりに、健康保険法、厚生年金法、労働保険料徴収法といった他の法律において、控除した税額や保険料を記した計算書を従業員に交付しなければならないとされているため、給与明細書には控除額や保険料が記載されていることが一般的です。

それぞれの記載項目の内容や根拠となる法律は次のとおりです。

賃金台帳給与明細書
記載項目の内容・氏名 ・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・時間外労働時間数
・深夜労働時間数
・休日労働時間数
・基本給や各種手当の種類と金額
・控除項目とその金額
・基本給や手当の種類と金額
・源泉徴収額
・保険料
・口座への振り込みをした金額
根拠となる法律労働基準法第108条・所得税法
・健康保険法
・厚生年金方
・労働保険徴収法
保存義務労働者の最後の賃金を記帳してから3年なし

以上のように、賃金台帳で必須となっている項目が給与明細書に記載されているとは限りません。そのため、給与明細書を賃金台帳の代わりに扱うことは事実上不可能です。

賃金台帳の保存期間

賃金台帳

次に、賃金台帳の保存期間について解説していきましょう。

賃金台帳の保存期間は、労働基準法第109条において3年と決められており、社員に支払った給与に関する賃金台帳を記載した日から数えて3年保存します。

ただし、賃金を支払った期日が記載日より遅い場合には、その支払期日から起算して3年ですので、起算日が異なることに注意しましょう。

なお、2020年に法律の一部が改正となり、賃金台帳記録の保存期間は5年に延長されることが決まっています。しかし、当分の間は3年で据置かれているのが現状です。

賃金台帳に関する罰則

保存期間を守らず賃金台帳を管理していなかった場合、罰則があります。

賃金台帳は、定期的に提出するような書類ではありません。ただし、労働基準監督署による臨検監督などでは提出する必要があるため、作成したうえで適正に保存しておくことが大切です。

臨検監督とは、労働環境や賃金の支払い状況に関する抜き打ち検査のことを指します。罰則の対象となるのは、法律に定められた基準を満たしていない賃金台帳であった場合や、そもそも賃金台帳を作成していない場合です。このような場合には、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金に処される可能性があります。

しかし、賃金台帳の基準を満たしていないという理由だけで、すぐさま罰則が適用されることはありません。賃金台帳の不備が明らかになった場合、一般的には労働基準監督署から是正勧告という勧告書を受け取るようになっています。

この是正勧告に従わなかった場合は、罰則の適用が考えられます。是正勧告を受け取った場合は、是正の期日までに正式な賃金台帳を用意し、是正完了の日付とともに是正報告書を労働基準監督署に提出しましょう。

このような罰則を受けないためには、事前に法律に則った賃金台帳の保存方法を正しく理解しておく必要があります。

賃金台帳の書式

次に、賃金台帳の書き方のポイントについて解説しましょう。

賃金台帳の書き方に決まったフォーマットはありません。先述した項目が漏れなく記載されていれば、どのような様式でも問題ないとされています。

様式に迷った場合には、厚生労働省が公開している「常時雇用労働者」と「日々雇い入れられる者(日雇い労働者)」のテンプレートを参考にするのがおすすめです。

賃金台帳の書き方

続いては、賃金台帳に記載すべき項目について、それぞれ詳しく解説しましょう。

労働者の氏名、性別

労働者の氏名、性別の欄には、給与を支払われた従業員の名前と性別を記入します。社員番号などを設定している企業であれば、それも併せて記載しておくと良いでしょう。

性別を記載する理由は、その賃金台帳がどの従業員の帳簿かを明確にするためです。

賃金の計算期間

賃金計算期間とは、賃金を計算する際に対象となる期間のことです。原則として、毎月一定の期日に給与を支払い、1ヶ月に最低1ヶ月以上給与を支払う必要があります。

賃金計算期間(給与の締め日)は企業が自由に設定できるため、会社の規定の期間を記載しましょう。

たとえば、月末締めを設定している企業の5月分賃金台帳であれば、記載内容は「4月1日から4月30日」です。15日を締め日と設定している企業の4月分賃金台帳であれば、「3月16日から4月15日」と記載します。ただし、日雇いの従業員については、この項目の記入は不要です。

労働日数と労働時間数

労働日数と労働時間数は、賃金計算期間内に社員が働いた日数と時間を記載する項目です。残業時間や休日出勤の時間も含めた実数値を記載する点に注意しましょう。

たとえば、1日8時間、月に20日勤務として契約している正社員が休日出勤をした場合、労働日数と労働時間数はそれぞれ次のとおりです。

  • 労働日数=20日+休日出勤日数
  • 労働時間数=8時間×20日+休日労働時間

休日や早出、深夜労働時間数

休日出勤した日はもちろん、早出出勤や深夜労働した時間も記載します。夜10時~朝5時までの間に残業したときは、深夜残業としてカウントします。

時間外勤務・深夜労働・休日労働時間数は、行政が企業の労務管理内容をチェックする際に最も重視する項目の一つでもあります。重要視する理由は、企業側が労働基準法第36条に従い、労働基準監督局へ届出を行った上で従業員に残業させているか、また割増賃金率に沿って残業代が支払われているか、などを確認するためです。

基本賃金や所定時間外割増賃金、賞与などの種類と金額

基本賃金や所定時間外割増賃金、賞与などの種類と金額の欄では、社員へ支払う賃金の内訳を記載します。

記載する内容は、基本給や通勤手当・役員手当などの各種手当、所定時間を超えて働いた時間に対する割増賃金など、基本的に支払われる額と加算される賃金額の詳細と合計額です。

控除金

控除金の項目では、健康保険料、厚生年金保険料、社会保険料、所得税などの保険料・税金額や、減給処理時に控除した賃金額などを記載します。

賃金台帳の保存方法

賃金台帳を正しく保存するためには、次のようなポイントがあります。

ポイント

・事務所ごとに保存する
・更新日を記載しておく
・いつでもすぐに取り出せるように保管する
・紙媒体や電子媒体など保存しやすい方法で保管する
・管理担当者への教育を行う

それぞれ詳しく解説しましょう。

事務所ごとに保存する

賃金台帳は事業所ごとに作成・保存する必要があります。また、事業部や事業内容が異なる企業の場合は、それぞれの部署ごとに作成と保存の義務があります。

たとえば、本社、A工場、B工場及びC営業所を有する企業においては、本社に全体の従業員の賃金台帳を作成しておくだけでは違法となります。本社・A工場・B工場・C営業所にそれぞれの所属従業員の賃金台帳を作成・保存しなければなりません。

企業が本社で賃金台帳を一括作成するのは問題ありません。その場合、事務所に置く賃金台帳は写しでも構いません。

賃金台帳をパソコンで作成し、データとして保存している場合も、支社や事業所へ配布しておく必要があります。クラウド上のサーバーなどに保存しておき、どこからでもアクセスして表示したり印刷したりできる方式も認められています。自社の規模や状況に応じて、最適な方法を選択しましょう。

ただし、場所的に離れており実質事務所的役割を果たすものものであっても、規模が著しく小さく、組織的な関連や事務能力等が一つの事業場としての独立性がないものは、直近上位の機構とまとめ、一つの事業場として取り扱うことも可能とされています。

更新日を記載しておく

賃金台帳は、賃金の支払いのたびに必ず記入しなければなりません。賃金は毎月1回以上支払う必要があることから、賃金台帳も毎月1回以上記入することが必要です。

そのため、保存期間の起算日は最後に記入した日であるため、保存期間を間違えて破棄しないよう、賃金台帳を更新した日付は書いて保存しておくと良いでしょう。更新日を書いておくことで管理を効率化しつつ、間違いを防止することができます。

記入にあたっては、労働時間数を正確に管理することが必要不可欠であり、時間外労働や休日労動、深夜労動の時間数もそれぞれ明確にしなければなりません。

いつでもすぐに取り出せるように保管する

賃金台帳は、不意に訪れる労働基準監督署による監督指導で必ずチェックされる重要書類です。紙で保存する場合でもデータとして保存する場合でも、いつでも提出できるような状態にしておきましょう。

基本的には、給与の支払いごとに更新していき最新の状態にしておくことが望ましいです。勤怠管理システムなどを導入すると、更新作業を効率化することができます。

紙媒体や電子媒体など保存しやすい方法で保管する

賃金台帳の保存方法には、具体的な法律の定めがありません。そのため、紙媒体やデジタルデータによる保存も可能とされています。

データで保存する際は一定の要件を満たす環境で保存することが求められます。一定の要件とは、次の状態で賃金台帳を保管することです。

要件詳細
保存情報の安全性が確保されていること  ・デジタル保存された情報について、故意または過失による消去や書き換え、混同ができない状態であること。
・また、情報を記録した日付や時刻、媒体の製造番号などの固有標識が同一電子媒体上に記録され、いつでも参照可能であること。
・保存義務のある情報と保存義務のない情報を同一機器上で扱う場合、それぞれを明確に区別できること。
画像情報を正確に記録し、かつ長期的にわたって復元できること  ・電子媒体やドライブ、その他の関連機器について、保存義務のあるデジタル情報を正確に記録できる状態にあること。
・電子媒体に記録された保存義務のある情報を、法令によって定められた期間にわたり損なわれることなく保存できること。
・電子媒体やドライブ、媒体フォーマットやデータ保管システムについて、記録されたデジタル情報が正確に復元できること。
・労働基準監督官の調査時など必要な場合、直ちに必要事項が明らかとなり、その写しを提出できるシステム体制にあること。

管理担当者への教育を行う

賃金台帳の管理担当者への教育をしておくことも重要です。

保存期間を間違えて破棄してしまったり、項目の記載漏れがあったり、更新作業を忘れてしまったりすることがないように、管理の担当者には賃金台帳の仕組みやルールをしっかり共有しておきましょう。

管理担当者向けには、マニュアルを作っておくことがおすすめです。担当者が変更になる際はどうしても情報伝達が疎かになりがちです。引き継ぎ時の漏れがないように事前に準備しておくと良いでしょう。

まとめ

法定帳簿の一つである「賃金台帳」の書き方や保存期間、保存方法について解説しました。

賃金台帳は保存期間をしっかり守り、適切に保管することが大切です。記入する際は、項目の記入漏れがないように必要な項目は必ず確認しておきましょう。

なお、当社ディップ株式会社は、賃金台帳に必要な勤怠や給与の管理をスムーズにできる派遣基幹システム「jobs」を提供しています。

jobs」は案件の管理やスタッフ情報の管理はもちろん、派遣先企業へのアサインや業務に必要な契約書の作成・管理など派遣に必要な業務を一元管理して、効率良くアサインができるようになっています。

それにより、賃金台帳を更新する作業時間や工数を減らすことができるため、採用面談などのコア業務にかける時間を増やすことが可能です。

また、ニーズにあった人材の獲得を簡単にする「HRコボットfor応募対応」と連携すれば、募集フェーズから一元管理できるようになり、応募者への対応が24時間365日いつでもできるようになります。

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