派遣法の「クーリング期間」

派遣社員は派遣法によって、さまざまなルールが決められています。

派遣契約は有期雇用であり、かつ抵触日が設けられているため、基本的に3年以上同じ派遣先で同じ派遣社員を就業させることはできません。しかし、クーリング期間を開ければ再び同じ派遣先で働くことができるようになります。

今回は、派遣契約につきまとう3年ルールやクーリング期間、クーリング期間を利用する際の注意点について解説します。企業、派遣社員にそれぞれどんなメリットやデメリットがあるのかも紹介していますので、派遣先企業の担当者はもちろん、派遣会社や派遣される労働者の方はぜひ参考にしてください。

抵触日とは

クーリング期間を理解する前に、まずは抵触日と3年ルールについて理解を深めておきましょう。

抵触日とは、派遣社員としての3年の契約期間が経過した翌日の日を指します。たとえば、2022年9月1日に派遣社員の派遣を開始した場合、契約期間は最長で3年間となるため、2025年8月31日までです。この場合の抵触日は、翌日の2025年9月1日となります。

抵触日は「改正労働者派遣法」によって定められています。年度によって改正されることがあるため、常に最新の改正法をチェックし、法に則って派遣事業を行っているかを確認しておきましょう。

3年ルール

派遣の契約は、基本的に期限がついています。事前に定めた期間が満了になったら更新されるケースもありますが、基本的には無制限に更新することはできません。

派遣には、「3年ルール」と呼ばれる、派遣の開始した日から3年を上限とした期間制限が設けられています。この期間制限は労働者派遣法によって、派遣で働く労働者のキャリア形成を支援する目的で行われています。

このルールは、派遣会社はもちろん、派遣社員や派遣先企業のすべての人・企業が守らなくてはならないルールです。期間制限には、事業所単位と個人単位の2種類があります。

事業所単位では、過去に同じ派遣先で働いた期間を通算してカウントします。そのため、とある派遣労働者が過去に1年と半年働いた後に、別の派遣労働者が働く場合、後者の人は1年半までしかその派遣先で働けない仕組みとなっています。

個人単位では、派遣先を部署別に判断をする仕組みとなっています。同じ派遣先企業でも、部署が異なるのであれば、別の派遣先として扱われることが特徴です。そのため、3年経過しても部署が変わるのであれば、同じ派遣先企業で働くことが可能です。

派遣期間の制限が生まれた背景

派遣期間の制限が生まれた背景には、次の3つがあるといわれています。

  • 長期間にわたる派遣労働は、労働者の安定した雇用を侵害する恐れがあるから
  • 同一労働同一賃金のルールを侵害する可能性があるから
  • 長期間の派遣契約を結んだ場合、派遣契約の範囲を超越した業務を任せられる可能性があるから

これらの理由により、2015年から3年以上の雇用ができなくなりました。

3年ルールの例外

3年の期間を超えて雇用をしたい、派遣業務を続けたいという場合には、派遣先企業が労働者を直接雇用する必要があります。しかし、これには一部例外があり、要件を満たしていれば、3年を超えても派遣社員として雇用を続けることが可能です。

要件は次のとおりです。

3年ルールの例外

・60歳以上の派遣労働者を派遣する場合
・派遣元企業に無期雇用される派遣労働者を派遣する場合
・産前・産後休業や育児休業、介護休業などを取得する労働者の業務に、派遣労働者を派遣する場合
・終わりの時期が明確な有期プロジェクトの業務に派遣労働者を派遣する場合
・1ヶ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下の日数が限定された業務に派遣労働者を派遣する場合

上記に該当しないのに3年以上同じ企業かつ同じ部署で派遣社員として働いている場合には、労働局から指導が入る場合があります。最悪の場合、派遣会社に行政の指導や罰金が降る恐れもあるため、派遣社員の契約期間や要件はこまめに確認しておくと良いでしょう。

派遣のクーリング期間とは

3年ルール

期間制限に達すると、その企業で派遣として働けなくなるわけではありません。一定の期間が経過すると期間制限がリセットされ、同じ企業の同じ部署で働けるようになります。

抵触日がリセットされれば、再度3年間働くことが可能です。このリセットされる空白の期間のことをクーリング期間と呼びます。

具体的には、3ヶ月以上の期間を空ける必要があります。同じ派遣先企業、同じ部署で働きたい場合は、労働者が派遣されていない状態で、最短3ヶ月と1日経過すれば再びその派遣先で働くことができるようになります。

しかし、同じ派遣先企業かつ同じ部署で再び働くのは、労働者派遣法の趣旨と反している形になります。長期的に働いてもらいたい場合は、直接雇用に移行することが望ましいでしょう。

クーリング期間のメリット

クーリング期間には、派遣社員、派遣先企業双方にとってメリットがあります。それぞれ詳しく解説していきましょう。

派遣社員にとってのメリット

派遣社員にとって、クーリング期間のメリットは次の2つです。

派遣社員のメリット

・「派遣社員」という雇用形態のまま、同じ現場で3年以上働くことができる
・クーリング期間に入るタイミングで正社員になれる可能性がある

派遣先企業の派遣された部署の居心地が良く、そこで契約期間が終了した後も働きたいという場合には、クーリング期間を設けることによって同じ企業の同じ部署の派遣社員として再度働くことが可能です。

また、3年間の派遣社員の期間を経て、現場にとって必要な存在と思ってもらえれば、派遣先の企業から「正社員になって欲しい」と打診が来る可能性もあります。

期限付きの派遣社員だからこそ、クーリング期間を設けることによって辞めることになってしまうことを防ぐために声がかかるときもあります。

企業にとってのメリット

企業にとってクーリング期間があることによるメリットは、正社員や契約社員として社員を雇用せずに済むことです。

派遣契約の最長3年が経過した後、派遣社員をそのまま雇用したい場合には、基本的に「正社員」または「契約社員」として雇用することが望ましいとされています。

しかし、事情があって派遣社員のまま雇用し続けたい場合もあるでしょう。その場合は、クーリング期間を利用すれば3ヶ月と1日後には再び派遣社員として雇用することが可能です。

クーリング期間のデメリット

クーリング期間にはデメリットもあります。派遣社員にとってのデメリットや企業にとってのデメリットをそれぞれ解説します。

派遣社員にとってのデメリット

派遣社員にとってのデメリットは手続きの面倒さです。

クーリング期間中は労働契約が終了している形となるため、派遣会社に属していないとみなされます。そのため、社会保険に加入していた人は、たった3ヶ月の期間でも国民年金に切り替える必要があります。

また、連続勤務することで付与された有給休暇がリセットされてしまうというデメリットもあります。クーリング期間に入る前の3年間で蓄積した有給休暇は、すべて消化しておくことが望ましいでしょう。このことについてはさらに詳しく後述しています。

企業にとってのデメリット

企業にとってクーリング期間のデメリットは、優秀な人材を失う可能性があることです。

クーリング期間を設けることにより、企業にとって価値のある人材だと感じていた派遣社員が転職活動を行ったり、別の派遣先企業へ移動したりして、自社に戻ってきてくれない場合もあるでしょう。そうなると、社内で必要と考えていた存在を失うこととなってしまいます。

後任の人材を見つけなくてはならない手間や引き継ぎ、新たな人材への教育など、時間とコストが発生することを理解しておきましょう。

派遣のクーリング期間の注意点

クーリング期間は、派遣社員や派遣先企業の双方にメリットがある一方で、扱い方には十分注意する必要があります。ここではクーリング期間を活用する際の注意点について解説します。

注意点

・派遣会社との雇用関係が消滅する可能性がある
・クーリング期間では有給休暇がリセットされる
・クーリング期間だけの直接雇用は禁止されている
・クーリング期間終了後の再雇用は保証されない
・クーリング期間の乱用は指導対象となる

派遣会社との雇用関係が消滅する可能性がある

クーリング期間により、派遣会社との雇用関係が消滅するケースがあります。

抵触日、つまり派遣契約が終了した段階で、派遣会社との契約が更新されないと、派遣社員と派遣会社との雇用関係はなくなります。給料だけではなく、社会保険などの社会保障もなくなる点に注意しましょう。

しかし、派遣社員と派遣会社は任意の継続手続きを行うことが可能です。この期間は、たとえクーリング期間であっても、社会保険の資格を継続することができます。

派遣会社は、クーリング期間を適用することによって雇用関係が消滅することを事前にスタッフに説明しておくことで、後々のトラブルを回避できるでしょう。

クーリング期間では有給休暇がリセットされる

クーリング期間に入ると、有給休暇がリセットされるため注意が必要です。派遣会社と派遣社員の雇用契約は一旦終了することとなるため、これまでの勤務実績がリセットされます。

そのため、クーリング期間が近づいてきたら残っている有給休暇を確認し、計画的に取得することが大切です。有給休暇は、派遣の契約期間を終える前に消化するようにしましょう。

突然長期的な休暇を取得することも法律的には問題ありませんが、社内の業務が滞ってしまう可能性も考えられます。まとめて取得する場合は、事前に派遣先企業や派遣企業に確認をしておくことをおすすめします。

企業は、期限が近づく何ヶ月か前に、派遣労働者にその旨を通知してあげることが望ましいでしょう。

クーリング期間だけの直接雇用は禁止されている

クーリング期間を逃れるために、派遣社員をクーリング期間だけ直接雇用する行為は派遣法で禁止されているので絶対にやめましょう。抵触日をリセットするにはクーリング期間を設ける方法しかありませんので、その期間に雇用をするのであれば長期的な直接雇用を選択しましょう。

派遣社員という雇用形態を望むのであれば、空白期間を設けることがベストです。

クーリング期間終了後の再雇用は保証されない

クーリング期間が終了した後に、以前と同じ派遣先企業の同じ部署に配属されることは確約されていないため注意が必要です。

再契約を約束していたとしても、派遣先の経営状況が悪化したり、パートやアルバイトなど代わりとなる人材を雇用することで人手不足が解消したりする可能性もゼロではありません。

一般的には、派遣期間が終了した後にクーリング機関を設けて再契約をすることは少ないのが現状です。クーリング期間である3ヶ月の間に他の派遣社員を新たに配置する場合がほとんどです。

都合良く同じ派遣先企業で同じ仕事の欠員が出ている場合もありますが、可能性としては低いため、同じ派遣先が受け入れてくれない場合もあるということを理解しておきましょう。

クーリング期間後も再度働いて欲しい場合や直接雇用したい場合などは企業から事前に打診が入る場合が多いため、派遣先企業から具体的なアプローチがなかった場合は再契約が保証されていないことを派遣社員に伝えておきましょう。

クーリング期間の乱用は指導対象となる

クーリング期間を定めている労働者派遣法は、労働者のキャリアアップの観点からこのようなルールを設けています。そのため、派遣社員を繰り返し雇用すること、つまりクーリング期間の乱用は指導対象となる可能性もあります。

なお、派遣会社や派遣先企業がクーリング期間を活用して、派遣社員の配置をすることは違法ではありません。

まとめ

派遣契約につきまとう3年ルールやクーリング期間、クーリング期間を利用する際の注意点について解説しました。

基本的に3年以上同じ派遣先で同じ派遣社員を就業させることはできませんが、クーリング期間をあければ、再び同じ派遣先で働くことができるようになります。

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