派遣社員のメリット・デメリット

企業が新たに派遣社員を採用する際は、事前に把握しておくべきメリット・デメリットがあります。また、派遣社員と派遣先の双方が遵守すべき「労働者派遣法」の知識も必須となります。

そこで今回は、派遣社員の受け入れを検討している企業のご担当者様に向け、派遣社員採用のメリットやデメリット、派遣社員を上手く活用するためのポイントを解説します。さらに、基本的な法律知識とともに、派遣社員の採用・労務に関するトラブルを未然に防ぐための注意点も紹介します。

派遣社員と正社員の違い

派遣社員と正社員は、どのような点で異なるのでしょうか?まずは、派遣社員についての基本的な知識とともに、その違いを解説します。

派遣社員正社員
雇用主派遣会社勤務先
雇用期間有期無期
仕事内容契約に基づく ※禁止業務あり契約に基づく
給与形態時給制月給制
賞与なし ※求人によってはありの場合もあるあり
退職金なしあり
有給休暇取得可能取得可能

雇用主

派遣社員の雇用主は、「人材派遣会社」です。

そもそも派遣社員とは、派遣会社と雇用契約を結んだ上で、派遣元(派遣会社)と労働者派遣契約を結んでいる会社(派遣先)に派遣される社員のことをいいます。派遣社員は、派遣先からの指揮命令を受けて業務にあたりますが、給与支払や有給付与、社会保険手続き、労災保険給付などは派遣会社が行います。

正社員とは異なり、派遣社員は上記のような複雑な労働形態となっているため、派遣社員が弱い立場とならないよう派遣元と派遣先で遵守すべきルールが定められています。派遣労働者の保護のための法律が、「労働者派遣法」(正しくは、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」)です。

雇用期間

雇用期間は、正社員が期間の定められていない「無期」に対し、派遣社員は期間が定められた「有期」での契約となります。

ただし、2015年に改正された労働派遣法では、いわゆる「3年ルール」が定められており、派遣社員は、派遣先の事業所における同一の業務(同じ部署や課)に3年を越えて勤務してはならないことになっています。

これは派遣社員の待遇改善を目的としたもので、3年働いた派遣社員は、派遣先が正社員として雇用する努力を促すことや、派遣社員が希望する場合は派遣会社での無期雇用へ契約を切り替える措置を講じるものです。

参考:厚生労働省「派遣先で働く皆さまへ」

仕事内容

派遣社員が行うべき仕事内容は、契約によってあらかじめ明確に規定されることとなります。そのため、派遣先が派遣社員に対して、契約外の業務を依頼することはできません。

一方、正社員の業務内容も、入社時に取り交わす「労働条件通知書」や「雇用契約書」に明示することが企業側に義務付けられています。

ただし、派遣社員と正社員とで大きく異なるのは、派遣社員には、労働者派遣法により、依頼が禁止されている業務があるという点です。派遣禁止業務とされているのは次のものです(一部例外あり)。

派遣禁止業務

・建設業務
・港湾運送業務
・警備業務
・医療関連業務
・士業

もし、派遣先が、派遣社員に対してこれらの禁止業務に従事させた場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」などの罰則や、業務改善命令・業務停止命令を受ける可能性があります。

さらに、派遣労働法に定められた「労働契約申込みみなし制度」の適用となり、派遣社員が意思表示をすれば、派遣社員と派遣先との労働契約が成立することになります。

参考:厚生労働省「労働契約申込みみなし制度」

給与形態

一般的な給与形態は、正社員が「月給制」で、派遣社員が「時給制」です。

派遣社員の時給は、時給換算すると正社員よりも高いケースがありますが、平日勤務の派遣社員の場合、祝日が多い月は出勤日数が減り、その分給与も減ってしまいます。

さらに、派遣社員には、賞与(ボーナス)、退職金もありません。この点は、派遣社員にとってのデメリットといえるでしょう。

なお、派遣社員を雇う側として知っておくべき知識は、2020年から施行されている「派遣労働者の同一労働同一賃金」の考え方です。これは、通常の労働者と派遣労働者との不合理な待遇差を解消することを目指す取り組みです。

シンプルにいえば、派遣社員も正社員も同じ業務を行うのであれば、給与・待遇に格差があってはいけないという考え方を目指すものです。

ただし、何をもって“同じ業務”とするかは、業務内容だけで判断されるものではありません。正社員であれば、責任の範囲・転勤や異動の可能性などもあり、派遣社員とは労働条件がまったく異なるケースもあります。

派遣先としては、正社員にとっても派遣社員にとっても、双方に納得感のある業務内容と待遇・給与形態を目指していくことが求められます。

参考:厚生労働省「派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要」

有給休暇の取得

企業は、一定の要件を満たす労働者に対しては、法律により有給休暇を付与することが定められています。

たとえば、フルタイム勤務の場合、勤務開始から6ヶ月間の継続勤務をした時点で8割以上の日数を勤務していれば、10日間の有給休暇が付与されることが決められています。この条件は、派遣社員・正社員においても同様です。

なお、派遣社員の有給休暇は、派遣会社が付与します。派遣社員が有給を取得する場合、派遣先が有給取得の承認を行い、派遣会社は派遣社員の有給申請に対して給与を支払うことになります。

企業が派遣社員を採用するメリット

派遣社員

正社員との違いを把握したところで、続いては派遣社員を採用するメリットを企業側の目線で解説していきます。

メリット

・採用・育成コストを削減できる
・専門性高い人材の即戦力採用が可能
・人手不足を効率的に解消できる

採用・育成コストを削減できる

派遣社員の採用コストは、正社員を採用するコストよりも低く抑えることができます。

たとえば、企業が正社員を採用しようとする場合、最初に求人募集をかけるための広告費や、人材エージェントへの紹介料などがかかります。また、毎月の給与支払い・ボーナスだけでなく、雇用保険・健康保険・社会保険など各種保険の対応なども必要となります。

一方、派遣社員は、上記のようなコストはかかりません。企業は、派遣会社に対して毎月の派遣料金を支払うのみとなります。

ちなみに、事務系スタッフの場合、派遣料金は派遣会社が派遣社員に対して支払う給与分に対して、3割ほど上乗せされた料金となります。企業が派遣会社に支払う派遣料金は、正社員に支払う給与に比べると割高となりますが、それでも中長期的な目線で考えれば、1人にかかるコストは抑えることができます。

専門性高い人材の即戦力採用が可能

派遣社員の採用は、はじめからマナーやスキルを身につけた即戦力人材を採用することが基本となります。

もちろん、自社ルールに沿って業務を行ってもらうためには、ある程度の育成期間やサポートは必要となりますが、新卒採用社員のようにゼロから指導・育成を行う必要はありません。

なお、一口に「派遣社員」といっても、彼らが持つ専門性はさまざまです。業務効率化のために定型的なオフィスワークをこなしてくれる「一般事務」だけでなく、「秘書」・「IT」・「システム」・「介護」・「看護」・「医療」など、より高い専門性を有する派遣社員もいます。

派遣会社によっては、特定の分野・業界に強みを持つ人材を多く集めている会社もあります。そのため、企業にとっては、派遣会社の選定も重要な要素の一つとなります。

人手不足を効率的に解消できる

派遣社員の雇用は「有期」となります。そのため、自社の繁忙期に合わせて必要な人員を採用することで、人手不足を効率的に解消することができます。

ただし、労働者派遣法では、日雇での派遣契約を原則禁止しており、最低期間を31日と定めています。つまり、企業の都合で、1日だけ・1週間といった短期間のみ派遣社員を雇って繁忙期を乗り切るということはできないので注意が必要です。

なお、以下①~⑱の業務については、例外的に30日以下での派遣契約が認められています。

派遣契約が認められている業務

①情報処理システム開発関係
②機械設計関係
③機器操作関係
④通訳・翻訳・速記関係
⑤秘書関係
⑥ファイリング関係
⑦調査関係
⑧財務関係
⑨貿易関係
⑩デモンストレーション関係
⑪添乗関係
⑫受付・案内関係
⑬研究開発関係
⑭事業の実施体制の企画・立案関係
⑮書籍等の制作・編集関係
⑯広告デザイン関係
⑰OAインストラクション関係
⑱セールスエンジニアの営業・金融商品の営業関係

企業が派遣社員を採用するデメリット

派遣社員を採用することには、デメリットもあります。

デメリット

・依頼できる業務に制限がある
・雇用できる期間に制限がある
・残業依頼に応じてもらえない可能性がある

依頼できる業務に制限がある

派遣社員に対して依頼できる業務は、予め契約によって規定されています。

契約外の業務を派遣社員に依頼すれば、仕事を断られるだけではなく、その後、大きなトラブルに発展する可能性もあります。仮に、派遣社員本人が了承したとしても、派遣先が派遣社員に対して契約外の業務を依頼することは違反行為となってしまいます。

そのため、派遣社員に対して、新たな業務や役割を付与していく際は、慎重な判断が求められます。正社員ではないこともあり、責任ある重要なプロジェクトを任せづらい点は否めません。

雇用できる期間に制限がある

派遣社員の中には、正社員のように勤務時間・職場環境・人間関係に拘束されない自由な働き方を自ら選んでいる方も多くいます。雇用期間も定められているため、仮に契約延長の申し入れをしても断られる可能性があることは念頭に入れておく必要があります。

さらに、より良い職場環境を求め、契約期間の満了前に退職するという可能性も視野に入れ採用を行わなければなりません。

残業依頼に応じてもらえない可能性がある

派遣社員は、正社員と同じ待遇ではないことや、正社員と同じ情報が共有されていないことから、会社への帰属意識も希薄になりがちです。そのため、派遣社員に対して、業務への柔軟な対応姿勢や理解を求めることが難しいケースもあり、残業依頼などはその代表的な一つです。

もちろん、契約で「時間外労働がある」ということを事前に定めていれば、派遣先は派遣社員に対して残業を指示することが可能です。それでも、派遣社員の立場からすれば正当な理由があれば残業を断ることもできますし、「みんなが残業しているから」という理由だけでは残業を強制することはできません。

派遣社員を採用する流れ

派遣社員を採用するメリット・デメリットを把握したところで、実際に、派遣社員を採用する際の大まかな流れを説明しましょう。

派遣社員を採用する流れ

・就業条件を決める
・派遣会社を選び希望条件を伝える
・派遣社員との顔合わせ

就業条件を決める

まずは、就業条件(勤務時間・残業の有無・就業先など)・業務内容・必要なスキルや資格など、希望する派遣人材のイメージを決めていきましょう。

業務内容は、できるだけ詳細かつ具体的に明示できることが大切です。派遣社員が実際に就業を開始してから、直後に「聞いていた話と違う」「イメージと違った」という理由ですぐに退職してしまうことは、決して珍しい話ではありません。

また、業務内容以外に、福利厚生・職場環境・社風といった点も、派遣社員にとっては勤務先を判断する上での大切なポイントとなります。

派遣会社を選び希望条件を伝える

派遣社員を採用した場合、派遣会社の営業担当者とも長い付き合いになる可能性があります。希望条件に合う人材を採用するために、信頼や実績のある派遣会社へ依頼を行いましょう。

そして、依頼を受けた派遣会社は、ヒアリングした内容をもとに、就業条件・スキル・適性などから紹介する人材の選定を行います。

ちなみに、人材の選定方法は派遣会社によって様々です。登録人材に対して求人情報のお知らせをして応募者を募ったり、条件にマッチする人材をデータベースから検索したり、求人広告を出して新たな登録者を募ったりと、あらゆる方法で候補者の選定を行います。

派遣社員との顔合わせ

採用における最後のステップは、派遣会社が選考を行った人材との「顔合わせ」です。顔合わせの後、採用決定~就業開始となります。

なお、この「顔合わせ」は、派遣社員が、派遣先企業の担当者へ業務内容の確認などを行うことを目的とした会社見学です。

労働者派遣法では、企業が履歴書の提出を求めたり面接によって選考したりすることが禁止されているため、あくまで派遣会社の選考基準によって、採用が決定となる点が大きなポイントとなります(直接雇用を前提とした「紹介予定派遣」であれば、履歴書や面接による選考が可能です)。

ちなみに、企業が派遣会社に依頼をしてから派遣社員が実際に就業を開始するまでの期間は、約1~3ヶ月程度です。

派遣社員を活用するポイント

派遣社員に十分な力を発揮してもらうためには、派遣社員が働きやすい環境づくりを意識することが必要となります。ここでは、派遣社員を上手に活用するために、意識すべきポイントを解説していきましょう。

ポイント

・仕事の範囲を明確に定めておく
・派遣社員が孤立しない環境作りを心がける
・研修・スキルアップの機会を作る

仕事の範囲を明確に定めておく

派遣社員は、人によって経験・経歴・能力もさまざまです。すぐに正社員を超えるような高い成果を上げる派遣社員もいれば、スキルや知識が追いつかずに、すぐに退職してしまう派遣社員もいるのが現状です。

そのため、派遣社員を受け入れる企業は、派遣社員の個々の能力に合わせて業務を依頼する必要があります。しかし、このような個々の能力のバラつきは、ときに問題を生むこともあります。

たとえば、「高い成果を上げる派遣社員ばかりに仕事を押し付けてしまう」「融通の利く派遣社員だけに残業を依頼する」「優秀な派遣社員に、契約の範囲を超える業務を依頼してしまう」など、こうした不平等・ルール違反が、のちに大きなトラブルに発展してしまう可能性もあります。

そのため、派遣社員に対しては、あらかじめ仕事の範囲を明確に定め、周囲メンバーにもしっかりと明示しておくことが大切です。

派遣社員が孤立しない環境作りを心がける

派遣社員は、派遣先への帰属意識が低くなりがちです。待遇面や福利厚生など、少しずつ直雇用の社員とは異なる環境から、さらに孤立してしまう可能性もあります。

しかし、正社員と同じオフィス環境で働いてもらう以上、周囲メンバーとの良好な人間関係・コミュニケーションは必須です。この点は、同じオフィスで働くメンバーの理解や協力も不可欠となりますので、派遣先の担当者が特に注意を払う必要があります。

たとえば、「入社初日は自己紹介をしてもらう」「ランチに誘う」「指示ばかりではなく、意見や考えを聞いてみる」といったように、可能な限り正社員と同じように扱うことを心がけましょう。

研修・スキルアップの機会を作る

派遣社員は、正社員とは異なり、派遣先での昇格や、年度ごとの定期的な昇給機会はありません。また、異動や転勤もないため、正社員に比べると、研修やスキルアップの機会は少なくなってしまいがちです。

そのため、派遣社員の知識・スキルという観点からはもちろん、モチベーションやエンゲージメントという観点からも、定期的な学びの機会をつくることを意識しましょう。

派遣社員を活用する際の注意点

最後に、派遣社員を上手く活用する上での注意点について解説しましょう。

注意点

・派遣社員の面接は禁止されている
・派遣社員の定着率を意識する
・法律違反やトラブルによる退職を防ぐ

派遣社員の面接は禁止されている

派遣社員とはいえ、新たに人材を採用する際は、正社員と同様に、ビジネススキルやコミュニケーション力の高い人材を採用したいものです。採用は慎重に行いたいところですが、労働者派遣法では、「履歴書」や「面接」による選考を禁止しています。

また、「適性検査」や「性別の限定」なども禁止されていますので、正社員と同様の採用ステップを踏もうとした場合は違法となります。

派遣社員の定着率を意識する

厚生労働省の調査によると、令和3年上半期(2021年1月~6月)の派遣社員の離職率は、8.1%となっています。法改正による待遇改善やリモートワーク普及の影響などもあり、近年は、離職率もやや減少傾向にあります。

しかし、派遣社員の中には、自身のライフスタイルに合わせて、より働きやすい職場環境を求める方も多くいます。仕事内容・仕事量・人間関係など、ミスマッチがあると「就業開始から2~3ヶ月で離職してしまう」という結果に至るケースも、決して珍しくはありません。

派遣社員の定着率を上げるためにも、派遣社員の活用ポイントで紹介した「仕事の範囲を明確に定めておく」、「派遣社員が孤立しない環境作りを心がける」、「研修・スキルアップの機会を作る」という意識が大切です。

参考:厚生労働省「令和3年上半期雇用動向調査結果の概要」

法律違反やトラブルによる退職を防ぐ

派遣社員の採用には、法律的な知識が必要となります。法律違反・派遣社員からの訴え・労務のトラブルなどによる退職は、事業継続にも関わるため避けなければなりません。

ここまで紹介してきた「3年ルール」「派遣禁止業務」「労働契約申込みみなし制度」「派遣労働者の同一労働同一賃金」「日雇派遣の原則禁止」「事前面接の禁止」などは、労働者派遣法の基礎的な知識です。改めて本記事を読み返していただきつつ、派遣社員と正社員の違いについて学びを深めていただければ幸いです。

まとめ

企業が派遣社員を採用し上手く活用するためには、人件費のコスト圧縮・業務効率性といったメリットだけを考えるだけでは不十分です。

労務に関するトラブルを未然に防ぐためにも、本記事で紹介した活用ポイント・注意点などを参考にしながら、自社組織の成長のために上手く派遣社員を活用していきましょう。

もちろん、派遣社員の力を最大限に発揮してもらうためには、受け入れ先の企業担当者・直雇用メンバーの努力や理解だけでなく、派遣会社の営業担当者の協力も必須となります。

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