労働基準法とはどんな法律かをわかりやすく解説

労働基準法とは、労働者を守るために制定された法律です。企業に使用される労働者は、どうしても立場が弱くなりやすいため、労働基準法において保護されています。

労働時間や賃金、時間外・休日労働など、こまかく定められており、どこをどう理解すればよいのかわからない担当者もいるのではないでしょうか。仮に、労働基準法に違反すると、行政指導や刑事罰が科せられるため注意が必要です。

この記事では、労働基準法についてわかりやすく解説しています。具体的な労働時間や基本7原則など、使用者として理解を深めておきましょう。

労働基準法の基礎知識

労働者を雇用するときは、労働基準法について正しく理解しておかなければなりません。まずは、労働基準法の基礎知識について解説します。

労働基準法の概要

労働基準法は、日本国憲法で「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定されたことをきっかけに1947年に施行された法律です。

日本で働く労働者の権利と義務について、最低限の基準が設けられています。労働者の使用者にあたる企業は、労働基準法を守らなければなりません。おもに以下の内容について基準が設けられています。

  • 賃金
  • 労働時間
  • 休憩
  • 休日
  • 時間外労働
  • 年次有給休暇
  • 解雇
  • 退職
  • 休日労働
  • 割増賃金
  • 労災
  • 管理監督者の範囲や責任など

労働基準法は、正社員はもちろん、パートやアルバイト、派遣社員、外国人労働者などすべての労働者に適用されます。企業は労働基準法で定められたルールに則り、労働条件を策定したら、以下の内容を労働者に書面で明示してください(労働基準法第15条)。

  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所、従事する業務の内容
  3. 労働時間に関する事項
  4. 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
  5. 退職に関する事項

企業は労働基準法を遵守し、労働者の権利を守らなければなりません。

参考:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「労働基準法のポイント

労働基準法の目的

労働基準法の目的は、労働条件に最低基準を設けて労働者を保護することです。

労働者は企業に雇用されることもあり、立場が弱くなりやすく、不合理な労働条件を提示されるケースがあります。こうした労働力を搾取される環境から保護するために、労働基準法が定められました。

どちらかに偏ったルールではなく、企業と労働者のお互いが納得し、満足する労働環境をつくるための基盤となっているのです。

最低ラインの労働基準を労働市場全体で守ることができれば、雇用形態を問わず、すべての労働者が働きやすい環境をつくることができます。

労働基準法の対象者と適用されないケース

労働基準法の対象者は原則、日本国内で働いているすべての労働者です。しかし、以下の職種は労働基準法が適用されません。

  • 船員
  • 家事使用人(家事代行サービスは除く)
  • 国家公務員(一般職・特別職含む)※
  • 地方公務員※

船員は、船員法の適用を受けるため、労働基準法は適応されません(労働契約法第20条)。
家族が事業主で同居の親族を使用人として雇用している場合、どちらにも適用されません。「家事使用人の雇用ガイドライン」をもとに働きやすい環境をつくることが大切です。

国家公務員と地方公務員は、民間企業とは異なるため労働基準法は適用されません。国家公務員法と地方公務員法が適用されます。
事業者は対象者と適用されないケースを正しく理解しておきましょう。

※ 労働基準法第21条

労働基準法の基本7原則

労働基準法は第1条~第7条までの基本7原則が定められています。

第1条:労働条件の原則労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たしていること。
第2条:労働条件の決定労働条件は、労働者と使用者が対等の立場で決めること。
第3条:均等待遇使用者は、労働者の国籍、信条・社会的身分を理由に労働条件で差別をしないこと。
第4条:男女同一賃金の原則使用者は、女性であることを理由に賃金について、男性と差別しないこと。
第5条:強制労働の禁止使用者は、暴行、脅迫、監禁など労働者の意思に反して労働を強制しないこと。
第6条:中間搾取の排除法律による場合を除いて、他人の就業に介入して利益を得ないこと。
第7条:公民権行使の保障労働者が労働時間中に、公民としての権利行使に必要な時間を請求したときは拒んではならない。ただし、権利の行使に妨げがない限り、請求された時刻の変更は可能。

参考:e-GOV検索「労働基準法|第一章 総則

これら基本7原則は「労働憲章」と呼ばれており、企業や採用担当者は理解しておかなければなりません。

労働基準法の重要ポイント

労働基準法を遵守するうえで、企業は労働条件に関する最低条件を理解しておかなければなりません。ここでは、労働基準法の重要ポイントについて解説します。

労働時間

労働時間は、労働基準法第32条で以下のように定められています。

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

わかりやすくいうと休憩時間を除いて、1日8時間・1週間40時間が労働基準法における「法定労働時間」です。この時間以上の労働は健康を害するおそれがあることから定められています。
そのため、1日8時間の労働時間を設定するなら、1週間の労働時間は5日間が上限です。

「法定労働時間」とは別に「所定労働時間」があります。「所定労働時間」は企業が定める労働時間のことです。「所定労働時間」は「法定労働時間」の上限を超えてはいけません。上限内であれば、自由に決めることができます。

また、労働時間については「実労働時間」と「拘束時間」という言葉もよく聞かれるでしょう。「実労働時間」は、休憩時間を除く指揮命令下で働いている時間のことです。「拘束時間」は「実労働時間」に休憩時間も含まれます。

もし、労働時間の上限を超えたり、休憩時間を取らせなかったりした場合、労働基準法違反となります。6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるので注意しましょう(労働基準法第119条)。

賃金

賃金は、労働基準法第24条で以下のように定められています。

・賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない。ただし、労働協約の適用を受けている労働者には、通貨以外のもので支払うことが可能。
・賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、賞与やその他の賃金はこの限りではない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

賃金は労働の対償として、企業が労働者に支払うものです。給与と給料も同じように使われますが、給与と給料は所得税法上の言葉で、給与所得に給料が含まれます。

報酬は労使関係がなくても、労働の対償として支払われるものを指しており、賃金や給料、各手当、賞与までも含めたものです。
報酬については、社会保険へ加入させる際の判断基準ともなるため、健康保険法で以下のように定義されています。

「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

参考:e-GOV検索「健康保険法

ただし、臨時で受け取る退職金や半年に1度支給される賞与などは、報酬には含まれません。

割増賃金

割増賃金は、労働基準法第37条で以下のように定められています。

時間外、深夜(原則午後10時~午前5時)に労働させた場合には2割5分以上、法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。

参考:e-GOV検索「労働基準法

わかりやすくいうと、法定労働時間を超えた労働や休日労働をしたときは、通常の賃金に上乗せしなければならないということです。

  • 所定労働時間外の労働:25%増
  • 法定休日の労働:35%増

休日労働の35%増が適用されるのは、労働基準法で定義された週1回以上の法定休日を指します。所定労働時間週40時間に調整するための所定休日に働いてもらったときは25%増です。

同じ休日労働でも設定の仕方で割増率が異なります。週休2日制を導入している企業の場合、割増率を考えて法定休日と所定休日を決めておくとよいでしょう。

時間外・休日労働

時間外労働とは、所定労働時間1日8時間、週40時間を超えて働かせることをいいます。もし、法定休日に働いたとしても、1週間の労働時間が所定労働時間を超えていない場合、時間外労働とは認められません。

例えば、平日に週3回5時間勤務のパート主婦が、1日だけ8時間働いたとしても1週間の労働時間は18時間なので時間外労働とはならないのです。

休日労働とは、1週間に1日もしくは4週間で4日の休日を確保できない状態で労働をさせることを指します。
さきほどと同じ条件で働くパート主婦を例にした場合、週の労働時間は15時間となるため、休日労働とは認められません。

もし、正社員などフルタイムで働く人材に時間外労働や休日労働をしてもらうときは、事前に「時間外労働・休日労働協定(36協定)」を結ぶことが義務づけられています。

36協定は労使間の合意です。締結がない状態で時間外労働や休日労働をさせた場合、労働基準法違反となるので注意しましょう。

もし締結しても、必要最小限にとどめること。範囲内であっても労働者の安全配慮義務を怠ってはいけません。企業は労働者の業務区分や範囲を適正に管理することが大切です。

参考:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

休憩

休憩は、労働基準法第34条で以下のように定められています。

使用者は、労働時間が6時間を超える場合において、少なくとも45分、8時間を超えるときは少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

わかりやすくすると以下の通りです。

6時間以下休憩なし
6時間~8時間以内の勤務45分
8時間以上の勤務1時間

休憩時間は、労働者にとって心身の疲れをいやすための時間です。そのため、労働時間によって休憩時間が定められています。労働基準法には「休憩3原則」があり、以下のように定義されています。

原則1:一斉付与休憩は一斉に与えなければならない
原則2:自由利用休憩は自由に過ごさせなければならない
原則3:途中付与休憩は労働時間の途中に与えなければならない

原則1は労働時間が6時間を超える場合のみ適用されます。また、運輸交通業や商業など一斉付与ができない業種は対象外です。

原則2は、休憩時間は好きなように過ごしてもらうことをいいます。勤務のための学習を指導したり、電話応対を頼んだりしてはいけません。また、警察官や養護施設職員などは職務上、自由に過ごせないこともあるため原則2は対象外です。

原則3は、労働時間内であれば休憩時間を分けて付与することができます。例えば8時間の労働時間内で1回目20分、2回目15分、3回目25分といった具合です。

店舗スタッフなどで、指揮命令下にある時間でも来店客がおらず、労働とは呼べない時間は休憩時間ではありません。「空き時間に勝手に休んで必要なときには対応してほしい」といったことで休憩を取ったとはらないので注意しましょう。

休日

休日については、常時10人以上の労働者を雇用する場合、就業規則に記載しなければなりません。企業側で自由に決められるものではなく、労働基準法に則って決めることが大切です。

休日は、労働基準法第35条において以下のように定められています。

使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない
・前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

つまり、企業は、週1回は必ず休日を設定し、かつ4週間を通して4日以上の休日を与えなければなりません。法令で定められた休日のため「法定休日」に該当します。

週休2日制を導入している場合、「法定休日」にくわえて、週のいずれかに1日休日があります。この1日の休日は「所定休日」で企業が独自に定めることができます。1日に限らず2日の所定休日を設けることも可能です。

週1回ではなく4週間に4日以上の休日を与える場合、「変形週休制度」となり、4週間を数えるための起点を就業規則に設けなければなりません。これは「労働基準法施行規則第12条の2第2項」で定められています。

「変形週休制度」はどうしても週1回の「法定休日」を設けられない場合に、労働者に休日を与えることが可能です。

有給休暇

有給休暇は、労働基準法第39条で以下のように定められています。

使用者は、その雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

そもそも有給休暇とは「有給」で休むことができる休暇のことです。正式名称は「年次有給休暇」で「年休」や「有休」などと呼ばれることもあります。

原則、1日単位で与えなければなりませんが、労使協定を結んでいれば、所定労働時間を上回ることがない範囲に限り、時間単位で与えることも可能です。有給休暇の付与条件は以下の2点です。

  1. 雇入れの日から6カ月継続勤務
  2. 全労働日の8割以上出勤

正社員や短時間勤務のパートタイム労働者も区別せず、要件を満たしていれば有給休暇を与えなければなりません。有給休暇の付与日数は、継続勤務年数で以下の通りです。

勤続勤務年数付与日数
0.5(6カ月)10日
1年6カ月11日
2年6カ月12日
3年6カ月14日
4年6カ月16日
5年6カ月18日

参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得

有給休暇を与える際、企業側は以下のルールを守らなければなりません。

  • 労働者が請求する時季に与えること(時季変更権あり)
  • 取得できなかった有給休暇日数は2年まで繰り越しが可能
  • 有給休暇取得にあたって労働者に不利益な扱いはしない
  • 時季指定があれば就業規則に記載する

有給休暇の日は労働者が指定した日が原則です。しかし、もし業務に支障をきたす場合は企業側に休暇日を変更できる権利があります。

国は「働き方改革」の一環として、2019年4月1日より年5日の年次有給休暇の付与が義務づけられました。これにより企業は、要件を満たした労働者には最低でも5日以上の有給休暇を取得させることが義務となっています。

こうした取り組みもあり、「令和5年就労条件総合調査の概況」では、企業が与えた年次有給休暇日数は1人あたり平均17.6日、実際に労働者が取得した日数は10.9日と、1984年以降過去最高の取得率となりました。

有給休暇については就業規則への記載は必須です(労働基準法第89条)。年次有給休暇の付与ルールに反したり、就業規則へ記載がなかったりした場合、労働基準法違反として罰則が科せられます(労働基準法第119条・120条)。

解雇制限

解雇制限とは、労働基準法第19条で以下のように定められています。

使用者は、労働者が業務上の負傷や療養のための休業期間、産前産後の女性が休業する期間の30日間は解雇してはならない。
ただし、打切補償の支払いや天災事変などで事業が継続不可能となったときは対象外。

参考:e-GOV検索「労働基準法

わかりやすくいうと、以下の条件に該当する場合、解雇することが禁じられています。

  • ケガや病気など治療のため休業期間
  • 女性労働者の産前・産後休業期間
  • 上記休業期間後の30日間

ただし、解雇手当や事業をゆるがすような災害が起きたときは、行政官庁へ理由を伝えて認定を受けたうえで解雇することができます。

解雇するときは少なくとも30日前に予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。労働者に解雇の理由を求められたときは「解雇理由証明書」を作成して交付することが法令で定められています(労働基準法第22条)。

解雇は労働者の生活にも影響するため、客観的かつ合理的な理由でなければ認められません。企業側は、労働基準法の解雇に関する条項を正しく理解しておかなければなりません。

女性労働者の保護

労働基準法第65条では、女性労働者を保護する規定が設けられています。

使用者は、6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
・産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務につかせることは差し支えない。
・使用者は妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

わかりやすくいうと、女性労働者には産前産後休業や生理日の休暇(労働基準法第68条)などの権利があるということです。

産前休業出産日の6週間前から出産日まで
産前休業出産後8週間以内

産前産後休業はパートタイム労働者にも与えられた権利のため、企業側は雇用形態を問わず、すべての女性労働者に与えなければなりません。

これらの休業制度は母体保護を目的としており、もし違反した場合、6カ月の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
女性労働者より妊娠報告を受けたら、以下のことを確認しましょう。

  • 出産予定日
  • 最終出勤日
  • 出産後の復帰希望
  • 育児休業の希望

産前産後休暇中の社会保険料は免除となるため、企業側も負担はありません。また、妊産婦には以下の通り残業時間の制限も設けられています(労働基準法第66条)。

  • 1日および1週間の法定労働時間を超えた労働
  • 法定休日労働
  • 深夜業

企業はこうした労働基準法における女性の保護規定を理解し、女性労働者が働きやすいように各規定の周知にも取り組むことが大切です。

児童の保護

労働基準法第57条では、児童の保護として満18歳未満の年少者を保護する規定があります。

使用者は、満18歳に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。

参考:e-GOV検索「労働基準法

未成年者が法律行為をするときは法定代理人の許可を得なければなりません(民法5条)。つまり、学校長または親権者などから同意を得なければ法令に違反します。

なかには学校に黙って面接にくるケースもありますが、学業に差し支えるようなことがあった場合、トラブルに発展するケースも少なくありません。もし、満18歳未満の年少者が面接にきたときは、学校や保護者の許可を得ているのか確認することが大切です。

児童本人ではなく、親権者や後見人が代わりに労働契約を結ぶ行為は、児童労働防止の観点から禁止されていることも覚えておきましょう(労働基準法第第58条)。

ほかにも、満18歳未満の年少者には、時間外労働と休日労働、深夜業が禁じられています。
シフト勤務にも1日の労働時間や週の所定労働時間などで規定が設けられているため、事前に確認が必要です。

36協定の基礎知識

「36協定(サブロク協定)」とは、労働基準法第36条で定められている協定届を略したもので、企業担当者は必ず理解しておかなければなりません。ここでは36協定の基礎知識について解説します。

36協定の概要

36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条「時間外及び休日の労働」で定められた労使協定を指します。36協定を労働者と締結することで、「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて労働させることが可能です。

残業や休日労働をさせる可能性があるときは、必ず36協定を結ばなければなりません。
36協定の正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」です。企業は協定届を書面でもって締結し、管轄の労働基準監督署に提出する義務があります。

36協定の具体的な内容

36協定を締結した場合、法定労働時間を超えて月45時間・年360時間を上限に時間外労働をさせることが可能です。法定労働時間とは「1日8時間・週40時間」を指します。企業側が取り決めた「所定労働時間」ではないことに注意しましょう。

例えば、9時~17時の勤務で間に1時間の休憩時間を設ける場合、所定労働時間は7時間です。18時までの残業は法定労働時間内ですが、19時まで残業しても法定労働時間は8時間のため、必ずしも36協定を結ぶ必要はありません。

ただし、19時まで残業した場合、法定労働時間を1時間オーバーしてしまいます。こうした労働の可能性がある場合、36協定を締結していないと罰則が科せられるため注意が必要です。

もし、時間外労働が月45時間を超えるときは、36協定届に「特別条項」を設けなければなりません。
正社員はもちろん、パートタイム労働者でも時間外労働の可能性があるなら、採用時に36協定を締結しておくことが大切です。

厚生労働省の「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」より新様式の届出書のテンプレートをダウンロードできるので活用しましょう。

36協定届は5年間の保存が義務づけられています。入社手続きで必要な書類の管理には、「人事労務コボット」がおすすめです。労働条件通知書や雇用契約書もまとめて管理できます。

36協定違反になるケースと罰則

36協定を締結せずに残業させると労働基準法違反となりますが、「特別条項」を設けると年6回まで月45時間を超える臨時的な時間外労働が可能です。

ただし以下の条件に該当するときは、労働基準法違反となります。

  • 時間外労働+休日労働の合計時間が月100時間以上、年720時間が上限
  • 2カ月~6カ月の平均労働時間が80時間以上

これらのルールを守らなかった場合、36協定違反となり労働基準法における罰則「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられるため注意が必要です。

労働基準法違反になるケース

労働基準法に違反した場合、行政指導を受けることになります。ただ悪質だと判断された場合、刑事処分も免れません。ここでは具体的にどのようなケースが労働基準法違反になるのか、具体的に解説します。

残業代が支払われない

時間外労働をしている労働者に、残業代を支払わないのは労働基準法違反です。「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます(労働基準法第119条)。

労働時間をタイムカードや勤怠管理システムで管理している場合、定時で打刻をさせて残業させるケースが該当します。こうした行為を労働者が主体的にしたとして、残業代を支払わない行為も労働基準法第37条に反する行為です。

残業代は、労働基準法第41条の2項より管理職には支給されません。この条項を悪用して管理監督者と偽装し、残業代を支払わないケースもあります。

管理職かどうかは、業務の性質や待遇面で判断されるため、企業側が該当する労働者を管理職であると主張しても認められないこともあると覚えておきましょう。

賃金を期日通りに支払わない

賃金を期日通りに支払わないのは、労働基準法第24条に反する行為です。未払賃金が発生した場合、労働者からの訴訟リスクや労働基準法違反として「30万円以下の罰金」が科せられます(労働基準法第120条1号)。

賃金の支払い方法には以下のように原則があり、企業は必ず労働者に「労働の対償」として支払わなければなりません。

通貨払いの原則通貨で支払うこと
直接払いの原則労働者に直接支払うこと
全額払いの原則控除額以外の全額を支払うこと

上記原則を含め、毎月1回以上一定の期日を定めて支払うことが企業の義務です(賃金支払の五原則)。

もし、以下に該当するときは違反行為となります。

  • 給料日に賃金を支払わない
  • 罰金などが賃金から差し引かれている
  • 最低賃金を下回っている

原則、労働契約や就業規則で定めた所定の日に支払わない場合、労働者の在籍の有無で以下の利息がついてくるため、注意が必要です。

  • 労働者が在籍中なら年3%(2020年3月31日までは年6%)
  • 労働者が退職後なら年14.6%

未払賃金が発生しないように、企業は労務管理と支払い日を適正に管理しなければなりません。

有給休暇を取得させない

有給休暇が付与される労働者であるにも関わらず、有給休暇を取得させない場合、労働基準法第39条に違反します。労働者に有給休暇を取得させることは企業の義務です。

たとえ人手不足でも労働者から有給休暇の申請があれば、与えなければなりません。有給休暇に関する労働基準法違反に該当するケースは以下の通りです。

  • 有給休暇を10日以上取得できる労働者に、最低年5日以上の有給休暇を取得させない
  • 有給休暇の取得理由で取得させない

有給休暇の理由を聞くのは問題ではありませんが、取得理由を聞いて休暇を取る必要はないと判断する権利は企業にありません。

こうした有給休暇に関する労働基準法違反の場合、労働者1人あたり30万円以下の罰金が科せられます。使用する労働者が30名なら900万円の罰金です。大きな損失となるため、注意しなければなりません。

2024年4月の労働基準法改正のポイント

2024年4月に改正労働基準法が施行されました。改正内容のポイントは以下の通りです。

明示する労働条件事項の追加

労働契約・更新時に以下の内容を明示することが義務づけられました。

  • 就業場所・業務の変更の範囲
  • 更新上限に関すること
  • 無期転換申込機会
  • 無期転換後の労働条件

これらの項目は、労働者の予測可能性を高めることが目的です。将来を見据えて検討してもらうためにも、必ず明示しなければなりません。

参考:厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?

時間外労働の上限規制の猶予期間終了

建設業やドライバーは、残業時間の上限規制の適用が5年間猶予されていました。しかし、2024年4月より猶予期間が終了となっています。原則、月45時間・年360時間の上限など、労働基準法で定められた上限規制が適用されることを理解しておきましょう。

業務2024年4月からの適用
建設事業・災害復旧・復興事業を除いて上限規制が適用される
・災害復旧・復興事業に関して、時間外労働と休日労働の上限規制は適用されない
自動車運転業務(ドライバー)・特別条項付き36協定を締結すると時間外労働時間の上限が年960時間となる
・時間外労働と休日労働の合計(月100時間・2~6カ月の月平均80時間)の規制は適用されない
・時間外労働が月45時間を超えるのが年6カ月以内の規制は適用されない

また、医師にも時間外労働の上限規制が設けられました。特別条項付きの36協定を結ぶ場合、時間外労働・休日労働は最大年1860時間です。

また、時間外労働45時間以上が6カ月までとする一般的な上限規制を守るのは、職務上困難なため適用されません。

パートタイム・アルバイトの社会保険適用事業所の拡大

2024年10月から、従業員51人以上がいる事業所で働くパート・アルバイトも社会保険へ加入させなければならなくなりました。2016年10月から段階的に拡充が進んでおり、今後も規模要件が下げられる可能性があります。

新たな社会保険加入対象者は、以下の通りです。

  • 週の所定労働時間20時間以上
  • 所定内賃金月額8.8万円以上
  • 2カ月を超える雇用見込みがある
  • 学生ではない

これにより、社会保険加入の手続きが増加する事業所もあるのではないでしょうか。対象者が多い場合は、事前に周知をしたうえで従業員に今後の働き方の意向を確認しておくことが大切です。

労働基準法違反を防ぐための対策

労働基準法違反は企業にとって大きなダメージとなるため防がなければなりません。ここでは、労働基準法違反を防ぐための対策について解説します。

労働基準法の内容を理解する

労働基準法に違反しないためには、労働基準法で定められたルールをしっかりと理解しておくことが大切です。経営者をはじめ、人事担当者、労務担当者が内容を理解しておくことで、違反に気が付くことができます。

定期的にコンプライアンス研修や勉強会を実施して、理解を深めておきましょう。とくに役員や管理職など経営陣については、法改正後の内容も理解しておかなければなりません。

もし、不明点や判断に迷ったときは、労働基準監督署などで相談が可能です。

就業規則や法定三帳簿を作成する

労働基準法違反を防ぐには、適正な就業規則の作成が欠かせません。そもそも就業規則を作成していない時点で労働基準法違反となるため、内容を確認しつつ作成することが大切です。

就業規則の作成とあわせて、法定三帳簿も作成しましょう。法定三帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」を指します。

  • 労働者名簿:労働者に関する情報をまとめた名簿
  • 賃金台帳:賃金支払いに関する事項を記載する台帳
  • 出勤簿:労働者の出勤状況を記載する帳簿

就業規則と法定三帳簿を作成しないと労働基準法違反です。行政指導および刑事罰に科せられるおそれもあるため注意しましょう。

人事労務ツールを活用する

労働基準法違反を防ぐには、労働基準法の内容を理解したうえで確認や手続きをおこなわなければなりません。多くの書類を扱うため、ときにはミスが起こることもあります。

労働基準法が関する書類は、労働者が担う業務内容や労働時間などが関係してくるため、もしミスをしてしまうと不安感を与えてしまうかもしれません。

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こうした人事労務ツールを活用することで、労働基準法に関する重要書類の作成や確認に注力することが可能です。

まとめ:労働基準法の内容をしっかりと理解して違反しないよう気をつけよう!

労働基準法についてわかりやすく解説しました。2024年4月に改正法が施行され、労働時間の上限規制など適用される業務などが変わります。また、2024年10月からは社会保険の加入対象者も増えるため、企業の人事労務担当者は最新の労働基準法について理解しておくことが大切です。

しかし、人事労務担当者の業務量は多く、とくに採用繁忙期には多忙を極めます。採用繁忙期の入社手続きをスムーズにおこなうなら「人事労務コボット」の導入がおすすめです。

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