建設業界では、需要の高まりとともに深刻な人手不足が問題となっています。高齢化社会となっていく中で若手人材の確保が難しくなっており、多くの建設企業が人材採用と定着に苦労しています。
本記事では、建設業界が直面している人手不足の原因を再確認し、企業が取り組むべき具体的な対策について解説します。
建設業界の今を見つめ直し、対策を行って人手不足解消を目指しましょう。
人手不足が深刻化する建設業界
建設業界の人手不足は年々深刻化しています。
国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」によれば、建設業就業者数はピーク時である1997(平成9)年の685万人から年々減少しており、2021(令和3)年には485万人と約29%減となっています。
さらに建設業就業者の年齢構成を見てみると、55歳以上が35.5%を占める一方で29歳以下はわずか12%となっており、若年層が圧倒的に不足しています。
建設技能者も60歳以上が全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退する見込みであることから、次世代への技術継承が大きな課題となっています。
また円安の影響により、他国と日本の賃金格差が狭まったことで、外国人建設技術者の不足という問題も起きており、建設業全体の人手不足が原因のひとつと言えます。
建設業界が人手不足に陥る原因
建設業界が人手不足に陥る主な原因としては、建設業界全体の需要増加、少子高齢化に伴う働き手の減少、厳しい労働環境の3つが挙げられます。
それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。
建設業界全体の需要増加
国土交通省の「令和6年度(2024年度)建設投資見通し 概要」によると、2015年頃から建設投資額(名目値)は右肩上がりの傾向を示しています。
2024年度の建設投資は73兆200億円(2023年度比2.7%増)に達する見通しとなっており、この需要増加の背景にはさまざまな要因が絡み合っています。
過去のオリンピック関連施設の建設需要に加え、現在進行中の大阪万博やリニア中央新幹線関連施設の建設が大きな牽引力となっています。また、高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化に伴うメンテナンス需要も急増しています。さらに、超高齢社会の進展に伴い、高齢者施設の建設需要も増加の一途をたどっています。
これらの複合的な要因により、建設業界全体の需要は今後も増加していく傾向にあります。
少子高齢化に伴う働き手の減少
日本全体で進行する人口減少と高齢化は、建設業界にも深刻な影響を及ぼしています。
ベテラン技術者の大量退職、若手入職者の減少、技術・技能の伝承困難といった問題が顕在化しています。
国土交通省の統計によれば、60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占める一方、29歳以下の割合は全体の約12%であり、若年入職者の確保・育成が緊急の課題となっています。
また、建設業の過酷な労働環境や3K(きつい、汚い、危険)のイメージを払拭できないことから、若者の新規雇用を促進できない状況が続いています。そのため、現在働いている中年層が長く働き続けることで高齢化が進行するという悪循環に陥っています。
長時間勤務や少ない休暇といった厳しい労働環境
建設業界の人手不足の大きな原因として最後に挙げるのが、厳しい労働環境です。
長時間労働や休日の少なさは、若い人材の確保を困難にする主要因となっています。
国土交通省の調査によると、建設業の年間実労働時間は全産業平均と比べて200時間以上多く、休日数も少ない傾向にあります。
給与水準については上昇傾向ですが、建設資材の価格高騰により経営が圧迫されている状況です。
そのため、労働環境の改善と給与水準の引き上げを同時に進めることが難しく、人材確保ができないのです。
この状況を改善するためには、業務効率化や生産性向上といった取り組みと並行して、労働環境の整備を進めていく必要があります。
建設業の人手不足を解消するために企業ができること
原因について理解したうえで、人手不足を解消するためにはどのようなことに取り組めばいいでしょうか。
企業ができる対策について以下にまとめました。
労働環境・待遇の改善
人手不足を解消するために必要な対策でまず考えられるものが、労働環境と待遇の改善です。
企業が見直すポイントとしては給与水準の引き上げ、有給休暇取得の推進、社会保険の完備、従業員の健康管理サポートなどが挙げられます。
また、ワークライフバランスの実現するために、残業時間の削減や休日の増加、効率的に働くためのフレックスタイム制の導入なども効果的です。
これらの取り組みにより従業員の満足度が向上し、離職率の低下が期待できるだけでなく新規採用の増加が期待できます。
特にこれから建設業界に入ろうと考えている若い世代に、魅力的な職場だと感じてもらうことが大切です。
工期の適切な設定
人手不足の解消には、適切な工期設定も不可欠な要素です。
無理な工期設定を行うと労働者の負担が増えてしまい、離職率を上昇させ、新規採用を困難なものにしてしまいます。
工期設定時に考慮するべき点は、国土交通省が以下のような指針を出していますので参考にしてみましょう。
(1)自然要因
降雨日・降雪日の影響
河川の出水期における作業制限
(2)休日・法定外労働時間
改正労働基準法に基づく法定外労働時間の遵守
建設業の担い手一人ひとりが週休2日(4週8休)を確保できる設定
(3)イベント
年末年始、夏季休暇、GWなどの季節的な影響
農業用水塔の落水期間などの地域特有の事情
(4)制約条件
鉄道近接工事の制限
航空制限などの立地に係る制約
(5)契約方式
設計段階における受注者(建設業者)の工期設定への関与
分離発注の影響
(6)関係者との調整
工事の前に実施する計画の説明会
地域住民との合意形成
(7)行政への申請
新技術や特許公報を指定する場合の許可取得に要する時間
(8)労働・安全衛生
労働安全衛生法等の関係法令の遵守
安全確保のための十分な工期設定
(9)工期変更
当初契約時の工期の施工が困難な場合の適切な契約条件の変更
受発注者間での協議・合意プロセス
(10)その他
施工時期や施工時間の制限
特殊な施工法による影響
これらの指針を考慮しつつ、改正労働基準法に基づく法定外労働時間の遵守や、建設業の担い手一人ひとりが週休2日(4週8休)を確保できるような工期設定が求められます。
また、天候や地域の特性、関連工事との調整なども考慮に入れて無理のない工程を組むことが大切です。
人材育成体制の確立
人材育成体制の確立を行うことで、若手社員の早期戦力化と定着率向上を目指しましょう。
まず、入社時の基礎研修から技術・スキル別の専門研修、さらには管理職育成研修まで、体系的な研修プログラムを導入することが重要です。これにより、社員のスキルアップとキャリア形成を支援できます。
また、講習や試験の費用を会社が全額または一部負担する資格取得支援制度を導入し、必要な資格取得のサポートを行うことも効果的です。さらに、明確なキャリアパスを提示することで社員の将来展望を明確にし、長期的な定着を促進できます。
これらの取り組みで社員の成長意欲を刺激し、企業で長く働きたいという気持ちを高めていきます。結果として人材の長期的な確保につながるだけでなく、充実した育成制度が企業の魅力となり、新規採用にも好影響を与えるでしょう。
IT・DXによる業務効率化
ICT(Information and Communication Technology)は情報通信技術と訳され、建設業界での導入も進められています。
国土交通省が推進する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」は、ICTなどを活用して建設現場の生産性を向上させる取り組みです。
IT技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用により、業務の効率化や人手不足の解消が期待されます。
具体的には、ドローンを活用した3D測量や点検、AI・IoTによる現場管理の効率化、VR・ARを用いた設計・施工シミュレーション、施工管理アプリによるスムーズな情報共有からコミュニケーションの促進などです。
これらの技術を積極的に導入することで業務効率化が進み、人材不足の解決につながります。
多様な人材の受け入れ
従来の男性中心の職場から脱却し、幅広い層の人材を活用することが人手不足の解消につながります。
近年では女性就業者数も増加しているため、女性が働きやすい環境整備も重要です。更衣室・トイレの設置や育児支援制度を充実させるなど、フォローアップ体制を整えましょう。
高齢者の経験を活かせる職場にするには、短時間勤務制度の導入や体力に応じた業務分担が考えられます。
外国人労働者の受け入れ体制整備も重要で、多言語対応や文化理解研修の実施が有効です。
また、アルバイトの活用も人材確保の施策として検討するべきですが、建設業への労働者派遣は原則禁止されているため、軽作業などの危険ではない業務に限定する必要があります。
建設業の人手不足を解消した取り組み事例
最後に、厚生労働省の資料より実際に取り組まれた中小企業の事例を紹介します。
具体的な改善例を参考にして、自社で取り組めるものから始めましょう。
社員を想い労働環境の改善に努めた企業事例
沖縄県の総合建設会社「照正組」では、まず激務になりがちな設計部の業務を洗い出し、他部門で担えるものを「仕事のシェア」という形で負担の分散化を進めました。
これによって導入から5年で平均残業時間を40時間削減することに成功しています。
この仕事のシェアはグループ会社間でもジョブローテーションを実施することで成り立っており、部門ごとの「縦割り人事」という習慣も廃止しました。
ジョブローテーションにより打ち合わせの回数を減らし、必要のない残業もなくすことで2019年からは業界的に難しいとされている週休2日制を実施できるようになりました。
さらに、年次有給休暇取得状況を部門ごとにまとめた「労働休暇白書」を毎年作成し、全社へ共有しました。
また管理を紙からシステムに移管することで、2018年から時間休制度も復活させています。
このような取り組みで、社員の満足度向上と業務効率化を同時に実現し、人材確保を成功しました。
休暇を確立することで人材の定着と雇用を安定させた企業事例
福岡市の建設用足場貸出会社「拓新産業」では社員が休みやすい環境を作ることで、人材不足を解消しています。
ワークライフバランスを実現させるため、週休2日制の徹底や年次有給休暇の取得促進を行っており、最近では3〜4人の採用枠に対して60〜70人の応募があるそうです。
公式サイトに採用日程を出すだけで人が集まるほど職場環境が注目されており、企業合同説明会などにはほとんど参加しないため、採用コストも抑えられています。
また基本的に残業を認めておらず、定時以外の顧客の取引相談なども業務時間外では対応を断り出直してもらうなど徹底しています。
産休・育休制度の利用促進を行いつつも、空いた仕事は誰でも埋められるよう能力開発や人事配置にも力を入れ、優良な職場環境を守っています。
今後は社員間のコミュニケーション強化などの課題があるものの、建設業界で30年前から進めてきた「働き方改革」は人材の定着と雇用の安定をもたらしています。
まとめ:建設業界の人手不足は労働環境の改善と採用強化で改善を
今後の建設業界の人手不足を解消していくためには、適切な工期設定やIT・DXの活用による業務効率化、そして多様な人材受け入れなどを活用していかなければなりません。そのうえで、人材教育体制の確立なども重要な要素です。
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