タイムシートは、派遣社員の給与支払や勤怠管理を行うための重要なツールの一つです。タイムシートの書き方を誤ることで、 思わぬトラブルに発展してしまうリスクもあります。
そこで今回は、派遣社員のタイムシートの正しい書き方や、記入時の注意点について解説します。
この記事を読めば、派遣社員の方が誤った書き方でタイムシートを記入し派遣元に提出することを未然に防ぐことができます。また、タイムシートをチェックする派遣元・派遣先の担当者の方も、どのようなポイントに着目して確認を行えば良いかわかるので、ぜひ最後までお読みください。
派遣社員のタイムシートとは
タイムシートは、派遣社員の出勤時間や退勤時間など勤務した時間を記録するものです。このタイムシートには、そもそもどのような意味や役割があるかご存知でしょうか?
まずは、タイムシートの役割と、書類としての重要性について解説します。
派遣社員が派遣会社(派遣元)へ送るもの
タイムシートは、派遣社員が毎日記入し、派遣先の担当者から承認サインをもらった上で、派遣社員から派遣元にFAXなどで提出報告を行います。
派遣社員は、派遣会社から指定されたタイムシートを使用するか、タイムシートのテンプレートを活用したり、エクセルで自作したりして使用するケースもあります。
近年では、デジタルによる高度な機能を持つ「勤怠管理システム」も普及し、タイムシートの記録・提出をWebで行う方法を採用している企業もあります。
勤怠管理システムを利用する際も、派遣社員が勤務時間を申告し、派遣先の担当者が内容を確認し派遣元に報告するという流れは、アナログのタイムシートと変わりありません。
勤怠管理・給与支払のための重要書類
タイムシートは、派遣社員の正しい勤怠状況を確認するためのツールです。派遣元は、派遣社員の勤務日数・勤務時間・残業時間などをタイムシートによって確認・計算し、給与を支払います。また、派遣元だけでなく、派遣先にとっても、タイムシートは労務管理を行うための重要な書類となります。
近年、政府による働き方改革の推進により、企業はこれまで以上に適切な労務管理を求められることとなりました。法改正により、時間外労働の上限・時間外労働の割増賃金など、罰則対象となる基準もこれまでより厳しくなっています。
派遣元にとっても派遣先にとっても、タイムシートの重要性はますます高まっています。
企業には保管義務がある
労働基準法では、正社員・契約社員・派遣社員・アルバイトなどの雇用形態に関わらず、従業員の労働関係の重要書類については、保管期間を5年と定めています。
また、労働者派遣法では、派遣先に対して「派遣先管理台帳」の作成と3年間の保存を義務付けています。この派遣先管理台帳には、派遣社員の労働日・労働時間(始業時間・終業時間・休憩時間)を記録し、同時に派遣元に対して1ヶ月に1回以上通知することが義務付けられています。正しく作成・保存をしなかった場合は、罰則や行政処分の対象となります。
つまり、タイムシートの保管を含めた労働時間の管理・把握については、労働基準法と労働者派遣法の両方の規定が適用となり、企業はタイムシートを適正に記録し保管する義務があるのです。
派遣社員のタイムシートの書き方
続いて、必ず押さえておくべきタイムシートの一般的な記載事項について解説します。
始業・終業・休憩
タイムシートに記載すべきもっとも基本的な項目は、「始業時間」「終業時間」「休憩時間」です。
この3点は、派遣先企業に作成・保存が義務付けられている派遣先管理台帳の必須項目でもあります。タイムシートの書式などは異なっても、この3点は必ず記載しなければいけません。
なお、ここでのポイントは、タイムシートについては、「出勤時間」ではなく「始業時間」を記載する点です。出勤時間と始業時間を区別しなくてはならない理由については、注意点のところで解説します。
残業時間
派遣元が指定するタイムシートのフォーマットによっては、残業時間など「時間外労働」の時間を記入する必要があります。この時間外労働とは、法定労働時間である「1日8時間(週40時間)」を超えて働いた時間のことをいいます。
そして、この法定労働時間を超えた時間に対しては、「時間外割増」の割増賃金ルールに沿って給与計算を行う必要があり、時間外割増の割増率は125%となっています。
基本の勤務時間9~17時の従業員が、9~19時まで勤務した場合(残業2時間):
時間外割増(125%)の対象となるのは、法定労働時間の8時間を超えた18時~19時までの1時間。
休日出勤
派遣元が指定するタイムシートのフォーマットによっては、休日出勤をした日について、それが「法定休日」か「法定外休日(所定休日)」なのか記入する必要があります。
そして、「法定休日」に働いた時間数は、「休日割増」として135%の割増賃金が発生します。
この法定休日とは、労働基準法によって定められている「使用者が労働者に必ず与えなければならない休日」のことです。使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日(もしくは4週間を通じて4日以上の休日)を与えなければならないことになっています。
一方、法定外休日(所定休日)とは「雇用者が任意で労働者に与える休日」のことで、こちらは、休日割増は発生しません。
なお、日本企業の多くは土日などの週休2日制を採っていますが、法定休日も法定外休日も、企業ごとによって任意に決めることができます。つまり、土日休みの派遣社員が、仮に土曜日に休日出勤をしたからといって、必ず割増賃金が発生するわけではありません。
派遣社員の法定外休日が何曜日なのかということを、あらかじめ把握しておく必要があるのです。
欠勤・有給
タイムシートのフォーマットによっては、出勤日ではない日の記録として「欠勤」か「有給」なのか記入するものもあります。
ちなみに、有給については、フルタイム勤務で働く場合、勤務開始から6ヶ月間の継続勤務をした時点で8割以上の日数を勤務していれば10日間の有給休暇が付与されることとなっています。この条件は、派遣社員などの雇用形態に関わらず、労働者の共通ルールとなっています。
ただし、派遣社員の場合、有給日数のカウントには注意が必要です。たとえば、以前の派遣先で有給日数を消化していない場合は有給がそのまま引き継がれますが、仕事をしない期間が連続して1ヶ月以上経過してしまった場合、その有給は消滅してしまいます。
派遣社員にとっては、自分の現在の有給残日数がどれくらいなのか、また派遣先の担当者としても派遣社員個々の有給残日数がどれくらいなのかを、しっかりと把握しておく必要があります。
タイムシートの書き方における注意点
タイムシートは、労務管理上の重要書類の一つです。書き方を誤ったり管理方法を誤ったりすることで、大きなトラブルに発展する可能性があります。このような事態を防ぐために、タイムシートを記入したりチェックしたりする際に、事前に抑えておくべき注意点をお伝えします。
記入する時間単位
労働時間の管理を行う上では、原則として「1分単位」での記録・計算が必要となります。また、残業時間についても、1分単位で記録し計算を行う必要があります。
これは労働基準法における「全額払いの原則」に該当するもので、たとえば使用者である企業が、従業員の残業時間を15分単位で切り捨てて計算を行うことは罰則対象となります。
そして、1分単位での記録・計算は、遅刻・早退の管理についても同様です。たとえば、朝9時始業の会社で、寝坊などの私的な理由により朝9時5分に遅刻してきた派遣社員がいた場合、15分切り上げて朝9時15分から始業開始とみなして給与計算を行うことも違法とみなされます。
この15分単位での切り捨て・切り上げは、かつては慣習として行っていた企業も多かったようですが、法改正が行われた現在は禁止されています。
出勤時間ではなく始業時間を記入する
「始業時間」と「出勤時間」は、厳密には異なります。タイムシートに記入すべき時間は、「始業時間」となるため注意が必要です。
日本のほとんどの企業では、朝9時が始業時間だった場合、10分くらい前には出勤して始業の準備をするという慣習があります。もちろん、10分前よりもさらに早い時間に出勤しなければならないと考える方も多くいることでしょう。
そして、一般的にはこの始業までの準備の時間は、労働時間にあたらず時給は発生しないといった考え方が、企業側にも労働者側にも浸透しています。ただし、この慣習は法律的にはグレーな部分とされています。
というのも、法律的な「始業時間」は、「使用者の指揮命令下に入った時刻」と考えられているからです。たとえば、朝9時からの業務開始前から上司からの指示を受け、業務を開始していた場合、厳密には「始業時間」が始まっている、つまり給与が発生していると考えられます。
企業は、こういった労働時間についてのトラブルを未然に回避するために、さまざまな対策を取っています。具体的には、始業開始前でも早く出勤した場合には「時間外労働」としてカウントし給与を支払ったり、パソコンを立ち上げ開始して良い時間を制限して社員が早く出社することを制限したり、朝礼・始業ミーティングは始業時間が開始してから行ったりといった対策を行っています。
電車遅延等のイレギュラー時の記載方法
多くの派遣会社は「実働時間分の請求」が基本となり、これは電車遅延などやむを得ない事情による遅刻の場合についても同様です。つまり、電車遅延の場合であっても、派遣会社は派遣社員に対して実際に働いていない時間の給与を支払う義務はありません。
しかし、実態としては、やむを得ず電車遅延により遅刻した場合、給与支払が発生するか否かの判断は派遣先の企業によって異なるのが現状です。派遣先によっては、遅延証明書を提出すれば「本来出勤するはずだった時間」を始業時間として記載するよう指示を行う企業もあります。
ただし、その一方で、遅延証明書を提出しても「実際に出勤した時間」を記載するよう指示を行う企業もあります。電車遅延の場合の始業時間をどのように記載するかは、派遣先で定められている会社規定や担当者の判断ということになります。
派遣社員の残業ルールは直雇用と異なる
派遣先の企業は、派遣社員に対して時間外労働や休日労働を行わせることができますが、その前提として、派遣社員が派遣元と36協定を締結している必要があります。
この36協定によって定められた時間外労働時間の限度は、会社によっても事業所によって異なり、派遣社員については派遣元である派遣会社の残業ルール・休日出勤が適用となります。
そのため、派遣社員に対しては、必ずしも直接雇用の社員と同じ残業ルール・休日出勤ルールを適用できるわけではありません。つまり、派遣社員を正社員と同じ扱いで残業させることによって、労務トラブルに発展することもあるため注意が必要です。
記入時間の漏れ・修正の際の訂正方法
タイムシートに記入漏れが発覚した場合の追記方法、修正が必要となった場合の訂正方法については、派遣会社や派遣先によって異なります。紙のタイムシートであれば、二重線と訂正印を押すことで了承をもらえるケースもあります。
しかし、エクセルやWebシステムで修正ができるものであれば、パソコン上で間違いのないタイムシートの作成を再度求められるケースもあります。最近は、勤怠管理システムなどWebシステムによる管理を行っている企業も多くありますので、追記・訂正が必要な場合は、派遣会社や派遣先担当者へ確認を行いましょう。
改ざんや嘘の記載
タイムシートの改ざん・虚偽の申告は、大きなトラブルに発展する可能性があります。悪質な場合、懲戒処分や罪に問われるケースもあるため、このようなトラブルに巻き込まれないよう、派遣社員側でも派遣社員を受け入れる派遣先側でも注意が必要です。
そもそもタイムシートは、派遣社員が自分自身で記入を行うものであるため、虚偽の申告が絶対に行われないとは言い切れません。紙方式の打刻カードをタイムシートとして利用する場合は、代理による不正打刻が絶対に発生しないとも言い切れません。
また、派遣先の企業が未だにサービス残業をさせるような風潮が残る組織であれば、タイムシートの記録が原因で労務管理上のトラブルに発展する可能性もあります。
たとえば、派遣社員は、実際の勤務時間よりも少ない時間を記入して申告することもあるでしょう。こういったタイムシートの記入に関する不正行為は、パソコン端末の操作履歴などを確認すれば、すぐに虚偽の申告とわかってしまうものです。
派遣社員の不正は、派遣会社と派遣先の信頼関係を壊すことにもつながり、派遣先を受け入れる企業側の労務管理トラブルは、行政指導の対象となり企業としての信用も失うことになります。
そのため、タイムシートをはじめ労務管理のために利用するツールは、デジタルによる管理を行い不正が行いにくいものを導入するなど、派遣元・派遣先の事前対策も必要となります。
まとめ
タイムシートは、派遣社員にとっても、派遣元・派遣先の企業にとっても、重要な書類です。正しい書き方によって記載し適切に管理を行わないと、給与や労務管理に関わる重大なトラブルに発展してしまう可能性があります。
今回紹介した注意点も参考にしつつ、業務効率化や労務管理の強化もできる「勤怠管理システム」などのデジタルツールも上手く活用しながら、安全にタイムシートを管理していきましょう。
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