管理台帳

派遣契約には、多くの契約書類が必要です。企業間のトラブルを防ぐためにも、派遣会社や派遣スタッフを抱える派遣先の企業はルールや仕組みについてしっかりと理解しておく必要があります。

今回は、派遣先・派遣元それぞれで作成・保管が必要な管理台帳について解説します。2020年に同一賃金同一労働による派遣法改正により追記が必要になった事項もあります。派遣会社に従事している方や、すでに規則を知っている方はおさらいも兼ねて確認してみてください。

派遣の管理台帳とは

派遣の管理台帳には「派遣先」「派遣元」の2種類の台帳が存在しています。それぞれに作成と保管義務があります。まずは、特徴と違いを把握していきましょう。

派遣先管理台帳

派遣先管理台帳とは、派遣先企業が派遣社員1人に対して1つ作成することが義務づけられている管理台帳です。派遣元管理台帳と対を成す内容を記載するもので、トラブルが発生した際などに見直すためにも保管義務があります。

目的は、派遣会社と派遣先が、派遣社員の労働日数や期間・時間など就業状況を詳しく把握することです。

また、内容の一部は派遣会社に通知義務のあるものになります。定期的に送付する必要があるため、日々の就労状況を漏れなく記録に残しておくようにする必要があります。

派遣元管理台帳

派遣元管理台帳は、派遣会社が作成を義務付けられているもので、派遣社員の勤務条件を明記した内容となります。労働者派遣法の37条で定められており、派遣元の情報と社員の業務の種類や責任の程度まで細かく明記しておかなければなりません。

派遣法の改正により追記事項も増えているため、後ほど詳しく解説します。WordやExcelなど自社のフォーマットを作成しても良いですが、項目が複数あるためそれぞれの労働局から配布されているフォーマットを使うと便利です。

管理台帳に具体的に記載する内容

続いて、管理台帳に記載する項目をすべて紹介します。あいまいな表記をせず、細かい部分まで具体的に記すことが重要です。

派遣先管理台帳の記載項目

派遣先台帳の項目は、全部で15項目あります。

記載項目

1. 派遣労働者の氏名
2. 派遣元事業主の氏名又は名称
3. 派遣元事業主の事業所の名称及び所在地
4. 派遣就業した事業所の名称及び所在地並びに組織単位
5. 派遣就業した事業所の所在地
6. 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
7. 派遣先責任者及び派遣元責任者に関する項目
8. 雇用保険・社会保険の加入の有無
9. 労使協定対象派遣労働者か否かの別
10. 無期雇用労働者か有期雇用労働者か否かの別
11. 派遣労働者の就業実績
12. 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
13. 教育訓練を行った日時及び内容
14. 紹介予定派遣に関する項目
15. 派遣受入期間制限を受けない業務については次の事項

派遣元管理台帳の記載項目

派遣元管理台帳への記載項目は、17つあります。

記載項目

1. 派遣社員の氏名
2. 派遣先の名称
3. 派遣先の事業所の名称
4. 派遣先の事業所の所在地
5. 無期雇用か有期雇用かの別(有期雇用派遣労働者の場合は労働期間)
6. 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、紹介予定派遣に関する事項
7. 労働者派遣の期間及び就業日
8. 始業及び終業の時刻
9. 60歳以上の者であるか否かの別
10. 業務内容
11. 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
12. 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理について
13. 時間外・休日労働について
14. 社会・労働保険の届出提出の有無(無い場合はその理由)
15. 時間外労働・休日労働の有無
16. 期間制限の対象外の業務の場合、その業務内容
17. キャリアコンサルティングの実施日時及び内容

このうち通知の義務があるのは6項目で、記載必須項目として17項目が定められています。

派遣法改正による追記事項

2021年に派遣法が改正され、派遣元管理台帳に記載しなければならない項目が増えています。ここでは、派遣法改正により追記事項となった3つについて解説していきます。

協定対象派遣スタッフであるか否かの別

1つ目は、「協定対象派遣」であるかどうかを記載することです。「協定対象派遣」とは、派遣元との労使協定で同一労働同一賃金に対応する方法です。

労使協定を結んだ場合、派遣先の正社員は、派遣社員に待遇を合わせる必要はありません。そのため、派遣先が変わった際にも賃金が上下しなくて済みます。

もう一つの「均等・均衡方式」は、派遣先の正社員と格差が生じないよう、同一賃金・同一労働に対応する方法です。こちらは、同じ業務を同じ責任の範囲で行っている場合、正社員と派遣社員の待遇を揃える必要があります。

派遣社員の給与が同じ業務でも派遣先によって変動してしまうため、「協定対象派遣」の形を選ぶ派遣会社の方が多いのが実情です。

派遣スタッフが従事する業務に伴う責任の程度

2つ目は、派遣スタッフに任せている業務に責任が伴う場合、その程度を記さなければならないことです。

派遣スタッフの中には、リーダーなどの役職や何かしらの決定権を持った業務を任されるケースがあります。そういった場合、責任の程度を詳しく記載する必要があります。

労働者派遣事業関係業務取扱要領(2020年4月1日以降)にも次のように記載があります。

・派遣労働者が従事する業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいうこと。

・チームリーダー、副リーダー等の役職を有する派遣労働者であればその具体的な役職を、役職を有さない派遣労働者であればその旨を記載することで足りるが、派遣元事業主と派遣先との間で、派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度について共通認識を持つことができるよう、より具体的に記載することが望ましい(※)

※引用元:厚生労働省「様式集(派遣先均等・均衡方式)」 「様式集(労使協定方式)」

管理台帳には、次のような内容を記載しておきましょう。

記載項目

・担当するメンバーの有無と人数
・時間外労働の有無と時間数
・トラブル処理やクレーム対応など責任のある業務の頻度や制限内容

基本的には、管理台帳で契約を交わした以上の業務を任せることはできません。責任の程度について、しっかりと擦り合わせておきましょう。

雇用安定措置を講じるに当たって聴取した希望の内容

3つ目は、派遣社員へ「雇用安定措置」を行った際には内容を記載しなければならないことです。

雇用安定措置とは、派遣社員が3年以上同じ事業所で働き続けられないことを踏まえて、継続して勤務できるように交渉することです。

無期雇用派遣への切り替え、派遣先へ直接雇用の依頼、新規案件の紹介などが当たります。どのような対策を取るか、決めるためには派遣社員に希望の有無を聴取する必要があります。

次のような形で記載しておきましょう。

記載例

・希望する雇用安定措置の内容を派遣労働者に聴取した日時
・派遣労働者が希望している雇用安定措置の内容
 -第一希望:派遣先への直接雇用の依頼(正社員)
 -第二希望:新しい派遣先の紹介

聴取と記載は、令和3年(2021年)4月1日から義務化が始まっています。

管理台帳の通知方法

派遣先管理台帳の内容は、派遣法第42条第3項、派遣法施行規則第38条により、毎月1回以上派遣元に通知する必要があります。通知方法は、メール添付・書面送付のどちらでも構いません。

派遣元に対して通知する項目は次のとおりです。

通知項目

・派遣労働者の氏名
・就業した日
・就業した日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間(タイムカードでも可)
・従事した業務の種類・内容
・従事した事業所の名称及び所在地その他派遣就業をした場所並びに組織単位
・派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度

忘れないように、毎月1日などルールを決めておくと漏れずに済みます。

苦情の受付や処理の対応が発生した場合、その都度派遣会社に報告が必要になります。発生したタイミングで、苦情の内容や日時をメールやFAXで送るようにしましょう。

派遣会社は、通知を受けて派遣社員の就業状況を知ることができます。正しい評価やトラブル対処のためにも、毎月欠かさずに行う必要があります。

管理台帳の保管方法と期限

派遣先・派遣元管理台帳は、いずれも派遣契約が終了した日から換算して3年間保管しておく義務があります。

以前は紙面による作成しか認められていませんでしたが、現在はデジタル化したデータでも認められるようになりました。少人数の派遣会社であれば紙面管理でも問題ないかもしれませんが、派遣社員の数が増えていくほど作成や管理に手間がかかります。

記載項目が多い書類であるため、システムを導入して作業効率を高めるようにしましょう。

紙面での保管の場合はスキャンも取っておくようにして、データの場合はクラウドを上手に活用するのがおすすめです。データ紛失や破損のリスクもあるため、セキュリティを強化した保管が求められます。

法律や罰則の有無

管理台帳を作成しなかったり、3年間保管していなかったりした場合、30万円以下の罰金刑に処される可能性があります。それだけ重要な書類であることを認識しましょう。

刑事罰を受けなくても、業務改善命令や派遣事業の許可が取り消されるケースもあります。

派遣先の場合は、派遣社員を受け入れることができなくなり、企業名を開示される場合があります。

どちらにせよ信頼される企業であり続けるために、派遣契約を交わすタイミングでかならず管理台帳を作成してください。

作成の必要がないケース

例外として、管理台帳の作成が必要ないケースもあります。それは、派遣元の正社員と派遣社員が合計で5名以下の小規模事業所である場合です。

たとえば、元々代表が1人で事業を行っており、1名派遣社員が加入しても、必ずしも派遣台帳を作成しなければならないという決まりはありません。

ただし、派遣先や派遣社員とトラブルを起こした際に、正しい状況を把握するすべがなくなってしまいます。義務化されていない場合でも、管理台帳を作成・保管しておくことをおすすめします。

まとめ

派遣会社や派遣先企業にとって、派遣社員の雇用を守るためにも帳簿の用意はかかせません。今回お伝えしたことをもとに、改めて日々の業務に生かしてみてください。

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