「派遣社員」と「契約社員」の違い

近年は、雇用形態などにとらわれない多様な働き方が浸透しています。自分自身のライフスタイルに合った仕事を選択するために、「派遣社員」と「契約社員」と、どちらが良いか検討している方もいることでしょう。

そこで今回は、派遣社員や契約者として就職・転職を検討している方に向けて、派遣社員と契約社員の違いや共通点について解説します。

また、それぞれのメリット・デメリットについても紹介します。今後の働き方を検討する上での参考にしてみてください。

派遣社員と契約社員の違い

派遣社員と契約社員、どちらがより自分の働き方に合うか検討するために、まずはその違いから確認していきましょう。派遣社員と契約社員を比較した表は下のとおりです。

項目派遣社員契約社員
雇用主派遣会社勤務先
雇用期間有期 ※無期への転換あり有期 ※無期への転換あり
仕事内容契約に基づく ※禁止業務あり契約に基づく
給与形態時給制月給制
賞与なし契約による
退職金なし契約による
有給休暇取得可能取得可能

 雇用主

派遣社員の雇用主は「派遣会社」であり、契約社員の雇用主は「勤務先」です。

そもそも、派遣社員とは派遣会社(派遣元)と雇用契約を結び、派遣会社と労働契約を結んでいる企業(派遣先)に派遣されて勤務する労働者のことをいいます。

一方、契約社員の雇用主は、正社員と同じく勤務先です。企業が直接雇用契約を結ぶことから、正社員も契約社員も「直接雇用」と呼ばれる労働形態となります。

派遣社員は、企業の直接雇用ではなく、複雑な労働形態となっているため、派遣社員が弱い立場とならないよう派遣会社と派遣先で遵守すべきルール(=労働者派遣法)が定められています。

雇用期間

雇用期間は、派遣社員・契約社員ともに「有期」です。派遣社員も契約社員も、1年間・6ヶ月間など定められた期間の「有期雇用契約」を結ぶこととなります。この点が、雇用期間が定められていない正社員との大きな違いです。

ただし、近年では、法改正等により、派遣社員・契約社員においても「無期雇用」で働くことが可能となっています。

たとえば、派遣社員については、派遣先の事業所における同一の業務(同じ部署や課)に3年を越えて勤務した場合、希望により派遣会社での無期雇用へと契約を切り替えることが可能となります(3年ルール)。

また、契約社員においては、「有期雇用契約」が繰り返し更新され、通算で5年を越えたときは、期間の定めのない「無期契約社員」へと転換できるルールとなっています。

こうした動きは、政府の働き方改革の一環として、雇用形態による待遇格差をなくすことを目的としたもので、雇用期間以外にもさまざまな面で是正が行われています。

仕事内容

派遣社員が行うべき仕事内容は、契約によってあらかじめ明確に規定されることとなります。そのため、派遣先が派遣社員に対して、契約外の業務を依頼することはできません。

一方、契約社員の業務内容も、入社時に取り交わす「労働条件通知書」などに明示することが企業側に義務付けられています。

ただし、契約社員は、正社員とほぼ同じ扱いでさまざまな業務を担うことが一般的です。派遣社員とは異なり、契約時には明示されていなかった業務を担当する可能性もあります。

なお、例外的なケースもありますが、基本的には、派遣社員も契約社員も「転勤」はありません。

勤務時間・残業の有無

勤務時間の長さや残業有無は仕事内容・求人条件によるため、派遣社員か契約社員によって明確な違いがあるとはいえません。

なお、労働基準法では、正社員・派遣社員・アルバイトなどの雇用形態に関わらず、「1日8時間・1週40時間以内」と法定労働時間が定められています。

また、企業は、派遣社員に対しても、契約社員に対しても、時間外労働や休日労働を行わせることができますが、時間外労働や休日労働を行わせるには、「36協定」(サブロク協定)を締結する必要があります。

この「36協定」とは、時間外・休日労働に関する労使協定(労働者と使用者間で取り交わされる約束事を書面契約したもの)のことで、協定によって定められた時間外労働時間の限度は、会社ごと・事業所(部署や課)ごとによっても異なります。

特に派遣社員は、派遣元である派遣会社と36協定を締結することになるため、直接雇用の従業員と同じ残業ルール・休日出勤ルールが適用されない点には注意が必要です。

給与・賞与

派遣社員の給与形態は、一般的に「時給制」です。契約社員の給与形態は「月給制」ですが、あらかじめその年の給与が決められた「年俸制」や「時給制」を採用している企業も一定数あります。

派遣社員と契約社員のどちらの給与が高いかは、職種・業務内容・労働時間によっても異なるため、一概にはいえません。たとえば、派遣社員の時給は、時給換算すると、契約社員よりも高いケースがあります。

しかし、平日勤務の派遣社員の場合、祝日が多い月は出勤日数が減り、その分給与も減ってしまいます。

また、派遣社員は、一般的に賞与(ボーナス)や退職金はありません。一方、契約社員についても、賞与・退職金が必ず支給されるわけではないので、事前に雇用契約の内容を確認する必要があります。

派遣社員と契約社員の共通点

派遣社員と契約社員の共通点

派遣社員と契約社員には、共通点もあります。ここでは、共通点について解説しましょう。

共通点

・雇用期間が定められている
・正社員に比べると給与は低い
・正社員に比べると福利厚生の範囲が狭い

雇用期間が定められている

派遣社員と契約社員の共通点は、雇用期間が定められているという点です。この点が、雇用期間が定められていない正社員との大きな違いの一つでもあります。

そして、この違いが、重要なプロジェクトや役割を任されるか否かといったことにもつながります。派遣社員・契約社員として高い成果を発揮していたとしても、重要なプロジェクトは正社員が担当するという組織が大半です。

さらに、担当業務や役割の違いは、給与にも大きな違いを生む結果へとつながります。なお、派遣社員と契約社員とでは更新頻度に違いがあり、派遣社員は3ヶ月ごと、契約社員は1年ごとに更新することが一般的です。

正社員に比べると給与は低い

派遣社員も契約社員も、正社員に比べると給与は低くなります。一般的に、派遣社員には賞与や退職金がなく、契約社員も賞与や退職金が必ず支給されるわけではありません。

また、正社員には昇進機会・昇給機会も定期的に訪れますので、勤続年数を重ねていくことで自ずと昇給していきます。月単位で見れば、派遣社員や契約社員の給与が正社員よりも高くなることもありますが、年間のトータルでは低くなってしまいます。

正社員に比べると福利厚生の範囲が狭い

派遣社員や契約社員は、正社員に比べると福利厚生の範囲が狭くなります。福利厚生とは、従業員のモチベーション向上等のために、企業が給与・賞与以外に提供する報酬やサービスのことをいいます。

具体的には、次のものなどが挙げられます。

福利厚生の例

・社会保険(雇用保険・健康保険・介護保険・労災保険・厚生年金保険)
・住宅手当
・退職金
・企業型確定拠出年金(401k)
・結婚祝金
・社員食堂
・施設利用
・割引制度

これらの制度の中で、社会保険は法定福利厚生として雇用形態による待遇差はありません(派遣社員は、派遣会社で社会保険に加入)。しかし、それ以外の制度は、会社独自で設ける制度となります。

そして、雇用条件・業務範囲などが正社員に比べて限定的な派遣社員・契約社員は、利用できる福利厚生の範囲も狭くなることが一般的です。

派遣社員のメリット

派遣社員と契約社員のどちらがより自分の働き方に合うか検討するために、それぞれのメリット・デメリットを確認していきましょう。まずは、派遣社員のメリットから解説します。

派遣社員のメリット

・ライフスタイルに合わせて仕事を探しやすい
・未経験や経歴問わずできる仕事が多い
・派遣会社が仕事・キャリアの相談に乗ってくれる

ライフスタイルに合わせて仕事を探しやすい

派遣社員は、業務内容・勤務時間・勤務地を自分が希望する条件に合わせて選択することができるため、ライフスタイルに合わせた働き方が可能です。仕事の範囲もあらかじめ決められており、残業についても正社員や契約社員と比べれば少ないことが一般的です。

また、正社員のように転勤・異動などもないため、勤務地が変わる心配もありません。実際に、派遣社員の中には子育てのため、家計のサポートのため、将来の目標を実現するためのダブルワークとして働いている方たちも多くいます。

未経験や経歴問わずできる仕事が多い

派遣社員の求人は、専門性や経験が問われるものも多くありますが、学歴や職歴を問わず応募できる求人も多くあります。

「自分にどんな仕事が向いているか分からない」、「将来どんな仕事をやりたいか分からない」という方は、派遣社員からスタートしてみるのも1つです。

派遣社員として、基本的なビジネススキル・専門知識を身に着けてから、正社員への採用にチャレンジするのも良いでしょう。

派遣会社が仕事・キャリアの相談に乗ってくれる

派遣社員は、派遣先に就業している期間中も、派遣会社の営業担当者と定期面談を行う機会があります。派遣先で困ったことがあれば、派遣会社の営業担当者が相談に乗り、派遣先との間に入ってフォローを行ってくれるケースもあります。

また、派遣先での契約期間が終了した際も、派遣会社の担当者が次の職場探しを支援したり、希望のキャリアに沿ったアドバイスなども行ったりしてくれます。

ただし、派遣社員へのフォローの手厚さは、派遣会社ごと・担当者ごとに異なるケースもあります。そのため、日頃から良好な関係を築いておくことや、困ったこと・将来のプラン・希望する就業先の条件などがあれば、それをしっかりと意思表示していく意識が大切です。

派遣社員のデメリット

続いて、派遣社員のデメリットについても紹介していきましょう。

派遣社員のデメリット

・時給制のため収入が一定ではない
・裁量が大きい仕事は任されない
・給与アップや昇進がない

時給制のため収入が一定ではない

派遣社員の多くは、時給制です。平日勤務のお仕事の場合、祝日の多い月は必然的に出勤日数も減るため、給与は低くなります。

また、欠勤・遅刻・早退をすれば、その分のお給料は支払われません。もちろん有給休暇の制度もありますが、一般的に勤務を開始した時点ですぐに取得できるものではありません。

ちなみに、フルタイム勤務の場合、有給休暇は、「勤務開始から6ヶ月間の継続勤務をした時点で、8割以上の日数を勤務していること」の条件を満たせば10日間付与されることになっています。

裁量が大きい仕事は任されない

派遣社員は、業務内容や雇用期間があらかじめ定められています。雇用期間は一定条件を満たせば「無期雇用」へ切り替えることができますが、業務内容についても制限があるため、裁量の大きい仕事は自ずと正社員に任されることになります。

また、企業としての責任が問われる業務・役割は正社員が担うこととなります。能力や仕事への意欲が高い人ほど、「もっと裁量を持って仕事をしたい」「もっと自分の能力を発揮できる環境で働きたい」と歯がゆい思いを抱くことになります。

給与アップや昇進がない

基本的に、派遣社員は給与アップの機会はありません。給与アップを希望する場合は、契約更新のタイミングにおける交渉、もしくは、派遣先を変更するタイミングで給与の高い求人を選択する以外に方法はありません。

また、派遣社員は昇進の機会もありません。正社員や契約社員よりも高い成果や能力を示すことができても給与は変わらないため、モチベーション管理も重要となってきます。「仕事でより高い成果を上げ、それに見合う報酬を得たい」という方は、正社員として働くことを視野に入れ、キャリアアップしていく考えが求められます。

契約社員のメリット

次に、契約社員のメリットについて解説します。契約社員と派遣社員とを比較した際、契約社員で働くことには、どのような良い点があるか確認していきましょう。

契約社員のメリット

・給与が正社員に近く安定している
・人気企業にも直接雇用の社員として採用されやすい
・転勤がない

給与が正社員に近く安定している

契約社員は「月給制」であるため、時給制の派遣社員と比べると給与は安定しています。また、契約社員の給与は、正社員の新入社員と比べると、ほとんど同じもしくはそれよりも高いという場合もあります。

これは、正社員には賞与・定期的な昇給機会があり、さらには雇用期間の定めもないため、スタート地点の給与が低く設定されていたり、昇給ペースが比較的緩やかに設定されていたりするためです。

契約社員は賞与が支給されない可能性があり、また雇用期間も定められているため、その分給与に上乗せされているようなイメージです。

人気企業にも直接雇用の社員として採用されやすい

人気企業や優良企業に正社員として入社をする場合、その応募倍率は、何千倍・何百倍にもなります。ライバルとの競争に勝ち残り、見事採用されるためには、それに見合った資質・経験・実力・アピール力などが求められます。

しかし、契約社員としての採用であれば、応募倍率も下がり、採用基準も正社員に求められるほどではありません。そのため、契約社員であれば、比較的ハードル低く、人気企業や優良企業で働くことができる可能性が高まります。

また、契約社員は直接雇用のため、派遣社員と比べれば正社員として働くチャンスも高まります。憧れの業界・憧れの企業で正社員として働きたいという強い思いのある方は、契約社員としてキャリアをスタートさせ、正社員登用制度を活用するのも選択肢の一つです。

転勤がない

基本的に、契約社員には転勤がありません。そのため、正社員のように急な異動・転勤を命じられることはありません。

また、派遣社員のように契約更新の頻度も少ないため、同じ会社・同じ勤務地で腰を据えて働くことができます。

契約社員のデメリット

最後に、契約社員のデメリットを解説しましょう。

契約社員のデメリット

・契約期間が限定的で不安定
・正社員と同じレベルの成果・業務量が求められる
・正社員よりも待遇が劣る

契約期間が限定的で不安定

契約社員は、派遣社員に比べると契約更新の頻度は少ないものの、1年に1回など定期的な更新タイミングがあります。その際、契約を更新しない「雇止め」となる場合もありますので、正社員に比べると、雇用は安定的ではありません。

ちなみに、会社が契約更新をする際の基準は、労働基準法によって決められています。会社が明示すべき「判断の基準」の具体的な例は、次のとおりです。

  • 契約期間満了時の業務量により判断する
  • 労働者の勤務成績、態度により判断する
  • 労働者の能力により判断する
  • 会社の経営状況により判断する
  • 従事している業務の進捗状況により判断する 

引用元:厚生労働省「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」

正社員と同じレベルの成果・業務量が求められる

契約社員は、契約期間の定めがあるものの、それ以外は、基本的に正社員と同様の扱いを受けます。正社員と同じレベルで成果を求められ、業務量や労働時間も正社員と変わらないことが一般的です。

また、派遣社員とは異なり、直接雇用となりますので、会社が決めた取り組み・方針についても柔軟な理解・対応が求められます。

「契約社員だから、この仕事はやらなくて良い」、「契約社員だから、残業はしなくて良い」といった特別な扱いを受けることもありません。そのため、守るべきライフスタイルがある方は、派遣社員の方が柔軟性を持って働ける可能性は高いといえます。

正社員よりも待遇が劣る

契約社員の給与は、派遣社員よりも安定しています。また、月単位・年単位で見れば、正社員の新入社員に比べると高い給与を支給される可能性もあります。

しかし、契約社員には、賞与や退職金が無いケースも多くあります。中長期的な期間で考えれば、契約社員の給与は、正社員よりも低くなってしまいます。また、契約社員は、雇用条件・業務範囲なども正社員に比べて限定的であることから、利用できる福利厚生の範囲も狭くなることが一般的です。

このように契約社員は、待遇面では正社員には劣ってしまいます。そのため、同じ会社で長く働くことを希望する場合は、契約社員であっても、無期雇用への切り替え・正社員へのキャリアアップを見据えて仕事に取り組むことが求められます。

まとめ

派遣社員と契約社員には、雇用期間が限られているという共通点はあるものの、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。一方、近年政府による働き方改革やそれに伴う法改正により、雇用形態による待遇差を是正する動きもあります。

そのため、派遣社員・契約社員など雇用形態にとらわれない多様な働き方は、ますます注目されることが見込まれます。個々のライフスタイルに合った仕事を見つけ、より充実した人生を送っていくために、今回お伝えしたことがその一助になれば幸いです。